おかずクラブ・オカリナさんと介護職の賃金問題を学んでいく「カイゴのおカネクラブ」。第3回のテーマは「福祉は儲けてはいけない」という価値観について考えます。
介護事業経営コンサルタントで、小濱介護経営事務所代表の小濱道博氏を講師に迎え、お話を聞いていきます。
「介護は儲けてはいけない」という価値観を考える
これまでお話を聞いてきて思ったんですが、そもそも介護って福祉の仕事だからおカネと結びつきにくいですよね
そうです、「介護は儲けてはいけない」という価値観も根強くありました。その価値観をつくっていたのは「老人福祉制度」という制度です
介護=福祉の時代は問題が多かった
現行の介護保険制度の前は、1963年に老人福祉法が制定されており、「老人福祉制度」と「老人保健制度」に基づいて介護サービスが提供されていました。
この老人福祉制度は多くの問題がある制度だったと言われています。介護の必要性や利用できるサービスを決定するのは行政であり、今のように利用者が選ぶ側ではありませんでした。
老人福祉制度の問題点
・自治体がサービスの種類、提供機関を決めるため、利用者がサービスの選択をすることができない
・所得調査が発生するため、利用にあたって心理的抵抗感が伴う
・競争原理が働かず、サービス内容が画一的
・本人と扶養義務者の収入に応じて、収入が多ければ多いほど利用者負担が大きくなり、中高所得者層にとって不公平感が強い
特に問題だったのが、扶養義務者の収入に応じて利用者の負担が大きくなる点でした。
下記の表は1975年における老人福祉法に基づく入所負担金徴収規則になります。
税額等による階層区分 | 扶養義務者の自己負担額 | ||
---|---|---|---|
A | 生活保護法による被保護者 | 0円 | |
B | A階層を除く市町村民税非課税の者 | 0円 | |
C1 | A階層及びB階層を除き所得税非課税の者 | 市町村民税所得割非課税 | 4,500 |
C2 | 市町村民税所得割課税 | 6,600 | |
D1 | A階層及びB階層を除き所得税課税の者であつて、その税額の年額区分が次の額である者 | 18,700円以下 | 9,000 |
D2 | 18,701~50,000 | 13,500 | |
D3 | 50,001~87,500 | 18,700 | |
D4 | 87,501~252,500 | 29,000 | |
D5 | 252,501~527,500 | 41,200 | |
D6 | 527,501~902,500 | 54,200 | |
D7 | 902,501~1,365,000 | 68,700 | |
D8 | 1,365,001~1,906,800 | 85,000 | |
D9 | 1,906,801~2,577,700 | 102,900 | |
D10 | 2,577,701~3,391,800 | 122,500 | |
D11 | 3,391,801~4,447,200 | 143,800 | |
D12 | 4,447,201~5,604,000 | 166,600 | |
D13 | 5,604,001~6,944,400 | 191,200 | |
D14 | 6,944,401円以上 | その月におけるその被措置者にかかる措置費の支弁額 |
収入が増えれば増えるほど負担額が大きくなっていることが読み取れます。中高所得者層には使いにくい制度でした。
料金負担だけでなく、虐待や身体拘束、介護者のストレスといった問題も増えていきました。
この時代に「介護地獄」という言葉が出てくるほどで、この時代の介護サービスがいかに機能していなかったかが伺えます。
20世紀までの介護は家族が行うのが当たり前だった
行政側が利用者のサービスの種類だけじゃなく、サービスを受けるかどうかも決めていたなんて驚きです
一番の問題は、中高所得層が使用しにくい制度だったこと。多くの家庭では在宅介護が基本で、「介護は儲けてはいけない」という声は、この時代を知っている人たちから出ているのでしょう
老人福祉制度の時代では中高所得層が使用しにくい制度だったため、それらの家庭では「介護=在宅介護」というのが当たり前でした。
また、在宅介護でも家族が行うのが一般的で、今でいう居宅介護サービスも低所得層が対象のため、普及しているとは言えませんでした。
「在宅介護が当たり前」という時代が長かった影響か、この20年で施設介護サービスは約1.5倍増えているのに対し、居宅介護サービスは約3倍の増加率になっています。
介護保険法施行により介護は福祉から商品になった
その問題が多かった老人福祉制度から現在の制度になったのはいつぐらいからですか?
介護保険法が1997年に成立し、2000年4月から施行されました。1990年代から検討され、数回の国会審議を経て、措置から契約への転換が始まった瞬間です
民間業者参入し自由度が高まった
介護保険法から老人福祉法になり、最も大きく変わった点は民間業者が介護業界に参入できるようになったことです。
国だけでなく民間事業者が参入できるようになりましたが、どうして国は参入を認めたのでしょうか?
介護保険法では利用者がサービスや事業者を選べるようになって、選択肢が広がり、圧倒的にサービスを提供できる事業所が不足したからです
介護サービスは行政から利用者に選択権が移り、自由度が高まりました。
伴って、2000年10月の訪問介護の事業者数は9,833だったのに対し、2019年10月では34,825に増えました。
民間施設と公的施設で比較すると、2000年10月が約7:3の割合でしたが、2019年10月には3:7と民間施設の割合が増えています。
自由主義経済での経営が求められるようになった結果、各施設ごとに提供されるサービスが異なるようになり、価格競争も起こりました。
マインドの変化による介護・福祉業界の現在
価格競争…介護も一般の企業と同じですね
経営者の頭の中も「どうしたら儲けられるか」です。一般企業の経営者と変わりません
現在の介護施設の経営者は一般企業の経営者と同じマインドに
民間業者が参入してサービスが多様化しましたが、その分業者ごとによって料金が変わってきます。
民間業者の経営者は利益を出すためにどうすれば良いか考えますが、これは一般企業の経営者と同様です。
国が運営しているときは、サービスが画一化されていてライバルもいないので問題ありませんでした。民間業者が参入してきたことによる変化は、サービスの多様化だけでなく、一般企業の経営者のマインドが介護業界に入ってきたという点もあります。
第4回は経営サイドの問題について迫ります。