「介護対談」第20回(前編)中浜崇之さん「8月に放送されたテレビ番組では予想を遥かに超える反響があった。でも、介護に関わる多くの人たちが思っていることを言っただけ」

「介護対談」第20回(前編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと介護ラボしゅう代表・中浜崇之さんの対談中浜崇之
1983年東京都生まれ。ヘルパー2級の現場実習で特別養護老人ホームに配属され、資格取得後にアルバイトとして勤務。半年後に正社員登用される。2010年に「介護ラボしゅう」を立ち上げ、“介護を文化へ”を目標に、介護事業者のネットワーク作りに尽力。毎月開催される定例勉強会は70回を超えている。現在は世田谷デイハウスイデア北烏山の管理者として就業中。NPO法人Ubdobe理事。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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8月に放送されたテレビ番組では予想を遥かに超える反響があった。でも、介護に関わる多くの人たちが思っていることを言っただけ(中浜)

中村 中浜さんは介護ラボしゅう代表、NPO法人Ubdobe理事、世田谷デイハウス北烏山の運営など、介護業界の様々な場面で活発に活動されています。2016年8月15日に放送された「好きか嫌いか言う時間」に、介護福祉士として出演されましたね。ブラックマヨネーズ・吉田氏に介護について語って、それが凄まじい反響でした。

中村中村
中浜中浜

中浜 予想を遥かに超える反響でした。テレビで放送されたときから始まって、なぜか1か月後に僕のところだけが切り取られてインターネットで動画がブワーッと流れた。介護職の方々から「自分たちが思っていたことを言語化してくれた」という声が多かったです。

中村 ちなみに中浜さんは、番組内でブラマヨ吉田氏に「介護の仕事ってどんな仕事だと思いますか?」と質問して話が展開し、「一般的には排泄とか入浴介助というイメージがあり、それも介護の一つだけど、それがすべてではない。介護の目的はその人が自分の人生を最期まで、自分らしく生きるために何をするべきか考えること」と答えています。

中村中村
中浜中浜

中浜 収録は録画で、ディレクターの方が編集でそういう作りにしてくれたようです。感謝ですね。どちらが面白いかといえば、悪口を言っているほうが面白いと思うので。自分の発言については、特別なことを言ったつもりはなくて、介護に関わる多くの人たちが思っていることを言っただけです。

中村 僕もテレビとネットを同時に見ていましたが、中浜さんが登場した瞬間に発言がどんどん拡散されていって、驚きました。そういうトルネードみたいな現象は滅多に起こらない。けど、起こった。中浜さんは誠実でカッコいいし、それが一目でわかる。カリスマ性があるのかもしれませんね。

中村中村
中浜中浜

中浜 自分ではよくわからないです(笑)

人生の最期に施設へ入ることは決して悪いことじゃない。現代の生活リズムに合うような在宅サービスが必要だと思う(中浜)

中村 今は世田谷デイハウス北烏山にお邪魔しています。綺麗な施設で高齢者の方も職員も楽しそうですね。起業されたのですか。

中村中村
中浜中浜

中浜 「小さなデイをやりたい、やりたい」って、まわりに言っていたら実現しちゃいました。元々ヘルパーで介護を始めて。特養で約8年、同じ法人のデイサービスで2年やりました。ここを立ち上げたのは3年前です。もっと個人、個人にアプローチしたい、もっと一人一人がしたいことができる環境を作りたいと思っていました。

中村 小規模デイは残念なことになりそうな流れですが、高齢者8〜10人に職員が3〜4人なので要望に応えることができるんですよね。やりたいことがある高齢者や認知症の方にとっては、小規模デイはいいですよね。

中村中村
中浜中浜

中浜 小規模デイを選択したのは、とにかく僕は施設がすごく好きで、介護もすごく好きだから。人生の最期に施設へ入ることは決して悪いことじゃないだろうって思っています。けど、現実は施設に入りたくて入っている人はほぼいないですし、ご家族もすごく悩んで決断されている。自分の家族を預けることに後悔されている方とか、最期まで看れないことに罪悪感を覚える方もたくさんいました。現代の生活リズムに合うような在宅サービスが必要かなって。

中村 柔軟な時間延長があるわけですね。今の9時〜17時のデイの仕組みではレスパイトが機能しない。家族が働けてお金を稼ぐ、それがあるからこそ在宅が維持できるわけだし。高齢者の自己実現プラス自分の親に在宅を選択させる手伝いをしたかったことですね。

中村中村
中浜中浜

中浜 僕は職場には恵まれていて、ある程度はやりたいことはできていました。ただ、通常規模だと限界があって、特に男性の利用者さん場合はなにもしないって選択肢も一つあるだろうし。個人が行きたいときに外に出られるとか。そういうことが当たり前にできるような環境を作りたいという気持ちがあって、自分で運営したかったわけです。

中村 介護業界がいまいちうまくまわっていないのは、若い人たちが活躍していないからでしょう。諦めていたり、我慢していたり、閉塞して小さなことに不満を抱えていたりする。だから業界全体が苦しい。いち介護職だった中浜さんが、どういう動きをして現在の状況になったのか、多くの若い職員たちの参考になりますね。

中村中村
中浜中浜

中浜 特養の介護職になって5年目、自分がなぜ辞めなかったのか考えたことがありました。当然辞めていく若い職員はいて、なにが自分と違うのかなと。自分には話を聞いてくれる先輩が近くにいたことが違いました。自分が思ったことに対し、良いか悪いか、実行するかしないかは別にして、柔軟な先輩がそばにいて一歩一歩前進しながら継続できたのです。

中村 なるほど。先輩たちが考える環境を作ってくれて、中浜さんのいう「人生を最期まで、自分らしく生きるために何をするべきか」を考えることができたわけですね。同じことを繰り返して諦めて単なる作業か、その人の人生に寄り添うか、大きな違いですね。

中村中村
中浜中浜

中浜 自分の想いをアウトプットできて、話ができる場所が必要だと思いました。それで特養5年目のとき「介護ラボしゅう」という団体を設立しました。愚痴が言える場所から始めようって。それを月一回、定例会という形で継続しています。対話の場ですね。

何度も心が折れたときに思ったのは「早い段階で役職に就かないと何も変わらない」(中浜)

中村 特養の介護職でありながら、法人とはまったく別の場所で活動を始めたのですね。介護ラボしゅうでは「介護職として思いや考えを共有し、支え合い、悩んでいる人をなくしたい」という目標を掲げています。

中村中村
中浜中浜

中浜 必要と思ったのが最初で、自分が先輩してもらったことを次の世代に返す、というイメージでした。たまたま自分が入職した法人は利用者さんのためにこういうことがしたいってとき、イエスと言ってくれる人が多かった。

中村 悩んだり、迷ったりしている介護職に対して、中浜さんが先輩になろうと。前向き気持ちやポジティブな芽がどんどん潰されている現状はあると思う。どれくらいかな、9割以上は初心を忘れているんじゃないかな。介護が作業になっちゃうとキツイ、とても続けられない。それを初心に戻る、初心を支えるというのは本当に必要だと思いますよ。

中村中村
中浜中浜

中浜 介護職を始めたばかりのとき、当然何度も心が折れたことはあります。僕が思ったのは、早い段階で役職に就かないと、何も変わらないってことです。仕事は増えるけど、自分が立てるような役職に就いて、そこで賛同してくれる仲間を増やそうと。自分の声を聞いてもらえる役職に就いたことが大きかったです。

中村 立場が変われば、コミュニケーションも変わりますからね。僕は大きな施設は知らないですが、現場のヒラ介護職の努力とかは、計算で出世できるものなのでしょうか。

中村中村
中浜中浜

中浜 例えばフロアのサブリーダーとか。やりたがれば就ける役職ってあるんですよね。僕はどんどん手を挙げた。そうすると、一番下でいるより意見が通りやすくなりますし、声が届く範囲が広がっていきます。

中村 なるほどね。自分の理想に近づくことや職場の改善のため、前に前に出るわけですね。出版社でも編集長と編集者では大違い。どこの世界も同じか。出版社は自分の意思で出世は難しいけど、新しい産業で問題山積みの介護業界は隙間だらけ、前に出たければ、ある程度は出られますね。難易度は低い。

中村中村
中浜中浜

中浜 そうすると、思いはあるけど、できない人、行動に移せない人が必ず周囲にいます。沸々としている人たちが同じように動いてくれたりするので、どんどん環境は良くなります。介護職の方々で「自分の職場ではできない」と言う人は多い。僕は職場でできなかったら意味がないと思う。

中村 まあ、どれだけ意識が高くても、高齢者や家族や地域に対して結果が出なければ単なる趣味だからね。結果に結びつける手伝いとか支えを名乗り出てくれる、中浜さんの存在はありがたいですね。

中村中村
中浜中浜

中浜 だから、介護ラボしゅうでは職場でできていない、愚痴が言えない、辞めようかなって人たちが少しでもアウトプットできて、「明日辞めようと思ったけど、もうちょっと頑張ってみようかな」というキッカケの場になればいい、という考えです。

給料が上がることは大きな好転の一つにはなるだろうけど、人が入ってこないというのはそれだけが原因ではないと思う(中浜)

中村 介護ラボしゅうについて、もうちょっと具体的に聞きます。中浜さんは今33歳で、十分に若いです。来ているのは20代の子たちがメインになるのでしょうか。

中村中村
中浜中浜

中浜 そうですね。色々な方がいますが、介護の仕事を続けようか迷っている20代は多いです。僕やその場で出会った人たちから、いろんな言葉を聞いて「悩んでいるのは自分だけじゃない」と思えてくる。年齢がだいぶ上の方から「自分も同じ年齢くらいのときには悩んでいた」とか、逆に「辞めるっていうのも一つだし、そこで頑張って続けるのも一つ」といった、いろいろなアドバイスがでてくる。

中村 まあ、辞めようと悩むのは職場環境と人間関係でしょう。どうなんでしょう。酷い施設は実際に多いと思うし、辞めていい施設に移ればいいのか。その人が頑張って悪環境を変えるのか、難しいところですね。介護業界全体でみたら、悪いところを変えて行かないと意味がないわけだし。

中村中村
中浜中浜

中浜 僕は辞めるのは辞めていいと思っていて、それで経営が難しくなるなら環境を作るほうが悪い。ケアもよくないだろうし。ただ一事業所で出会った人間だけで、介護業界全部だと思って辞めてしまうのはすごくもったいないというのはあります。

中村 ただ、それも運とか巡りあわせ。何人かの視界の範疇ではだいたい酷いところを辞めても、酷いところに移っていますよ。環境が悪いと移るのなら、最低でも同じ業種はやめたほうがいいよね。例えばお泊まりデイからお泊まりデイとか。意味がない。

中村中村
中浜中浜

中浜 それはそうかもしれませんね。介護の仕事って現場の種類が多様であり、自分の生活スタイルや仕事への目的によって選択の余地があるのもいいところだと思います。

中村 中浜さんの問題意識や取り組みで離職は減ると思います。それで人手不足です。介護職の人数を増やさなきゃいけない、みたいな役割は感じているのでしょうか。

中村中村
中浜中浜

中浜 給料をあげたら人材が入ってくるのかって疑問はあって、やっぱり働く環境。もちろん給料が上がることは大きな好転の一つにはなるだろうけど、人が入ってこないというのはそれだけが原因ではないですよね。僕はどの世代で介護にかかわるのかが大きいと思っていますね。

中村 学生時代にバイトやボランティアで介護にかかわるような経験をするってことですか。僕は酷い施設が多いので、若い人はなるべくかかわらないほうがいい、みたいな発言を結構しちゃっています。

中村中村
中浜中浜

中浜 これから高齢者が増えていく。介護現場はすごく人間力が身に就く場所だと思っていて、チーム力が必要ですし。自分で観察して判断してコミュニケーションをとる。それは社会に出たときにすごく役に立つ。スキルが学べる。

中村 まあ、これから混合介護の時代になって、他の仕事にしても、高齢者というキーワードは重要になってくるし。

中村中村
中浜中浜

中浜 だから学生時代に介護職をして、そのバイトを通して得た経験を他の分野で活用していく。ただただ介護職を増やすみたいな考え方じゃなく、介護職じゃなくても介護を知っている人を増やすほうが社会にとって有益だと考えています。

中村 なるほど。短期間とか腰掛けでも介護経験者を増やして、住みやすく、暮らしやすい社会を自分の経験を通して作っていこうってことですね。介護経験のあるなしではアイディアはまったく変わってくるだろうし、それはそうかもしれません。後半もよろしくお願いします。

中村中村
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