「介護対談」第20回(後編)中浜崇之さん「制度と法人にぶら下がっている人ほど文句を言う。給料が安いと言う前に、役職を志願したり現場を改善したりすることが必要」

「介護対談」第20回(後編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと介護ラボしゅう代表・中浜崇之さんの対談中浜崇之
1983年東京都生まれ。ヘルパー2級の現場実習で特別養護老人ホームに配属され、資格取得後にアルバイトとして勤務。半年後に正社員登用される。2010年に「介護ラボしゅう」を立ち上げ、“介護を文化へ”を目標に、介護事業者のネットワーク作りに尽力。毎月開催される定例勉強会は70回を超えている。現在は世田谷デイハウスイデア北烏山の管理者として就業中。NPO法人Ubdobe理事。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

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若い子が介護に興味を持っても親が止めてしまう(中浜)

中村 先日のテレビだけではなく、介護イベントや専門誌などに積極的に登場して「マイナスイメージの払拭が介護業界の最優先課題」といったニュアンスのことをよく語られています。介護にマイナスイメージがあることで、なにがまずいのでしょう。

中村中村
中浜中浜

中浜 多くの介護職は自分で「介護は3K」って言っています。自分で自分の首を締めているのは問題ですね。今の高校生に3Kと言っても「キツイ、汚い、危険」とか出ないはず。なのに、それを自分で言ってしまって、負の連鎖みたいな現象が起こっています。

中村 まあ、彼らは不満を抱えているのでしょう。男性に多い。僕はそういう人たちに辞めることを勧めているけど、ネガティブな愚痴を言う人ほど辞めないよね。他に行き場がない。

中村中村
中浜中浜

中浜 その延長で若い子で介護に興味を持ってやりたいと思っているけど、親が止めてしまうケースもたくさんあります。親の頭の中にある介護職のイメージがあって「お前を4年大学まで卒業させて、介護の仕事をさせるつもりはない」と。親の理解が間違っていて、本当はやりたいのに介護に入れない。

中村 でもね、それは当然かと。申し訳ないけど、僕の子供はまだ中学生だけど、大学新卒で介護職をやりたいと言い出したら絶対に止めさせます。現状におかしな法人が多すぎるし、将来性もない。数々の問題を改善しないと、親は当然そう言いますよ。

中村中村
中浜中浜

中浜 そうですか。仕事のイメージが悪化する理由の一つに、若い子たちが日常でなかなか出会わない職種というのもあります。現実的には介護職より、飲食業とか美容師の方が遥かに大変。長時間労働ですし、給料も介護職より安い。でも、介護のような悪いイメージはない。彼らと介護職の違いって、それまでの日常で出会ったことがあるか、ないかだと思うんです。

中村 この数年で、サービス業は使い捨てをやりすぎて全般的にイメージの悪化は著しいけど、介護と比べると美容師が華やかに見えたり、料理人がカッコよく見えるのは確か。そういう状況があって、中浜さんをはじめ数々の人が「介護を憧れの職業に」とアピールしているわけですね。

中村中村
中浜中浜

中浜 出会うチャンスがないだけで、外側のイメージだけで自分のフィルターじゃないところで見られているのが残念です。さらに身内や周囲から「悪い、悪い」となってしまっているのは、すごくもったいないと思って。

給料が安いって文句を言う前に、役職を志願したり現場を改善したりすることが必要(中浜)

中村 ただね、イメージが悪くなってしまうことには理由がある。今の介護業界は失業者を集めているし、賃金は安く、人間関係も荒れていて、さらにブラック企業が多い。いいことがない。「誤解されている」とポジティブなアピールをするより、悪い部分の改善の方が優先順位は上だと思うよ。実態がともなわないブランディングは絶対に成功しない。

中村中村
中浜中浜

中浜 それはわかります。僕も一生介護職をするのがいいとは思わないですし。今の介護業界の最もまずいことは、おっしゃる通りで、行き溜りになっている部分がある。人が循環しないで溜まっちゃう。介護業界の中だけでなく、介護を経験した者がなかなか次の場所に行けない。ネクストがない。介護職が介護現場以外で経験をいかせない現実はありますね。

中村 その社会的評価がないことは本当に重大な問題で、なんとかしないといけないし、それこそ中浜さんの役割だと思う。さすがにわかっていると思うけど、今は「感謝・感激・感動の3K」とか言っている場合ではない。このまま悪化すると、介護の経歴が社会に嫌われて他業種に転職できなくなるかもよ。

中村中村
中浜中浜

中浜 いや。介護保険外サービスが本格化して専門職として価値があれば、道は開けますよ。介護職がもっと保険外サービスを使って賃金を増やそうとか、役職について給料を増やそうとか頑張ればいいんです。介護保険の中でそれなりの給与をもらっている人も一部にはいるし。チャンスはありますよ。

中村 それは、中浜さんみたいな優秀な人がもっと活躍して、国にも口出しして流れを変えていかないと無理じゃないですか。この前、刑務所に介護の専門職を配置するという施策があった。予算を見たら最低賃金の近くで働かせるつもり。介護保険外で介護職が求められるシーンは、今すごく重要で、このままいくと本当に貧困ぎりぎりに固定されるよ。

中村中村
中浜中浜

中浜 専門職としてのPRも必要であると思います。ただ、僕は給料が上がらないのは、国のせいだけだというのは思考停止だと思う。例えば飲食店をやってお客さんが来ないのは、誰のせいにもできない。専門職として質が高ければ、全員は無理だけど、頑張っている人、結果を残している人であれば、お金がとれるチャンスはあるはずです。

中村 介護報酬は国が決めていて、介護保険でやれと言われていることが多すぎてブラックになっているんだから典型的な官製貧困だよ。ちなみに自分だったら、どうお金をとれます?

中村中村
中浜中浜

中浜 よくあるものでは介護旅行とか、訪問介護の保険外の部分で経験と知識があることをわかってもらえれば、任せてもらえる仕事が増えるかもしれない。それに後身に伝えるための講師とか。事業者のコンサルだけでなく、高齢者の方のライフプランナーみたいなこともできるかなと思いますね。

中村 たくさんの高齢者の終末期をみているから、これからどういうことが起こりうるというのはわかるよね。これからの準備を提案するプランナーとかはありか。ただ介護職の人は制度と法人にぶらさがって、危機感がなく、甘い人が多い。だから自己中心的な不満をダラダラと抱える。

中村中村
中浜中浜

中浜 僕はそのぶら下がり感が、昔からすごく嫌です。ぶら下がっている人ほど文句を言う。やっぱり、給料が安いって文句を言う前に責任を持つ役職に志願するとか、現場を改善するとか、頑張りや結果が必要ですよ。

中村 自分の施設を起業する介護福祉士もいないよね。その辺が美容師や飲食店の違い。自立する介護福祉士が多ければ、今のような低レベルな領域で荒れる現状はなかったかと。

中村中村

介護を経験した人はもっと社会に出ていくべき(中浜)

中浜中浜

中浜 僕は介護をやりたいとか、超高齢社会の役に立ちたいとか、この仕事に価値を感じる人がスムーズに入職できて、それなりに賃金がもらえるとか、働いてよかったと思ってもらえることを望んでいます。

中村 若い人に介護の魅力を伝えたり、入職を誘えばそれなりの責任はともなうよ。現実がまったく違ったりするのはまずい。最近、ホリエモンが介護業界の美辞麗句を揶揄する場面があったけど、時代をみながらアピールしてほしい。いい加減「感謝・感激・感動」的なことだけはやめてほしい。精神論は意味がない。

中村中村
中浜中浜

中浜 まあ、そうですよね。介護業界に足りないのは、介護を経験した人がもっと社会に出ていくことです。だから出口をもっと増やせる環境がほしい。介護職を一生の仕事にする必要はなくて、学生時代に2年3年やってその経験で得た知識をうまく社会で使えるような状態にしていく。そうすれば他業種のメリットにもなるし、好循環になります。

中村 なるほどね。介護経験がベースにあってこれからのシニア社会、シニアビジネス界で活躍すると。そうなれば介護業界の環境も大きく変わってくる。

中村中村
中浜中浜

中浜 二十代前半は社会人としてベースになる時期。今すぐにでも介護職はビジネスマナーも学ぶべきですね。例えば名刺を持ってない人がたくさんいるとか、電話の受け答えとか、そういう基礎的なことは絶対にやったほうがいい。それがないまま年齢を重ねていくと、介護の外に出たときに苦労しますし。

中村 外に出たとき、介護経験は強みになることは確か。僕もこうして介護ライターみたいなことをしているし。昔から介護業界の常識は世間の非常識みたいな言葉があるけど、それだと本当に自分の首を絞める。若い人はおっしゃる通り、常識やマナーは意識したほうがいいね。

中村中村

本当に支援が必要なのは対話の場に出てこない人、情報が伝わらない人、文句ばかり言って動かない人たち(中浜)

中浜中浜

中浜 現状の介護現場は文句を言いながらも続けている人たちがたくさんいる。理想と現実が違うみたいなことはよく言われるけど、そういう人たちに潰されちゃう若い子が多いです。

中村 僕がやっていた事業所もひどかった。他に行き場がない人ばかりが残って、陰で毎日、僕とか管理者の悪口や愚痴を一日中言っているみたいな。「ルポ 中年童貞(幻冬舎新書) 」って本にしたけど、若い子だけじゃなくて経営者も潰されますよ。

中村中村
中浜中浜

中浜 (笑)。成長というか変化を続ける、歴史のまだ浅い分野であるからこそ、新しい風や考えを柔軟に取り入れていく風土が欲しいですね。

中村 次期改正で介護保険はさらに厳しいことになるみたいだし、これからどうなるのかよく考えるけど、例えば中浜さんみたいな能力が高い方は介護保険外で稼いでもらって、話にでた地獄みたいな人たちは介護保険で最低限なことをやってもらうみたいになるのかな。二分化ですかね。

中村中村
中浜中浜

中浜 介護はアメリカに住む移民の人たちがやるビジネスになっています。格差の下の人たちがやっている。僕が対話をする場を主催して思うのは、そういう場に出てくる人たちはもうよくて。本当に支援が必要なのは出てこない人、情報が伝わらない人、文句ばかり言って動かない人たち。彼らには助けが必要だし、求めているのかなと思います。

中村 それはそうでしょう。不満を抱えて愚痴とか悪口ばかり言っているのは不幸でしかない。自分の職業や環境を前向きに100%活かしたほうが、自分自身を筆頭に誰もが幸せになれる。

中村中村
中浜中浜

中浜 これからは、そういう人たちが少しでも救われるようなことも考えていかないとならないですね。あと積極的に勉強会に出てきて、熱心に発言するのに自分の現場ではなにもやっていないという介護職が多くて、それにも危機感を覚えています。

中村 友達も少なくて、刺激がなくて寂しいんじゃないの。若い子のほとんどは経営なども含めた絶妙な案や判断ができると思わないし、なかなか上に意見が言えない仕方ない部分もある。下手に意識を高い口出しをすると、現場がさらに荒れちゃうだろうし。

中村中村
中浜中浜

中浜 介護現場の上には、「なんでも言って」という人は多いけど、そういう人に限って言うと怒ったりしますし。介護現場のリーダー層になる人たちの、リーダー的な能力なさが下の人が辞める大きな原因になっていることですね。

中村 リーダー不在はよく聞きます。介護福祉士が起業しないのと同じで、責任持ちたくない、前に出たくない、現場の介護以外はなにもしたくないって人が多いからだろうね。

中村中村
中浜中浜

中浜 リーダーはコミュニケーションをとれるような組織作りをしなきゃならないです。あとはどこを目指しているのかが必要で。ユニットでもいいけど、このユニットをどうしたいのかというビジョンがないと。行動ができる、言葉にもできる、それで下の人たちのマネジメントをできるのが、なかなか難しい。

中村 子は親を見て育つけど、親がいないみたいな。年齢を重ねて、経験も重ねた人はやるしかないでしょう。主催する介護ラボしゅうから一人でも多くの介護リーダーを輩出するしかない。

中村中村
中浜中浜

中浜 ありがとうございます。多角的に物事を捉えられて、疑問を持ち続けられる人を増やしていきたいですね。

中村 今、介護で目立っているのはベンチャー社長ばかり。現場の若い人がもっと目立たないと、本当に先は暗いですよ。中浜さんにはさらなる派手な活躍を期待しています。今日はありがとうございました。

中村中村
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