
大阪の特別養護老人ホームでユニットリーダーを務める。現場で遭遇したあれこれを明るく発信しており、Twitterにもファンは多い(@kaigo_radwimps )。いろいろな方の意見を聞きながら、自分の考えに落とし込むその姿勢に学ぶところがたくさん。
祖父の死をきっかけに考え出した「人の老い 」
彩さんは現在特養でユニットリーダーをされているとのことですが、これまでのご経歴を伺えますか?


はい。私は介護の仕事にすぐに就いたわけではなくて、高校時代にアルバイトしていたマクドナルドに契約社員としてそのまま就職したんです。
その後、コスメ会社に転職し販売員としてキャリアを積んだ後、副店長を任されていました。
最初は、介護ではない接客業のお仕事をされていたのですね。そこから、なにがきっかけで介護の仕事に就くようになったのですか?


きっかけは、祖父の死です。亡くなったとき、もっと分かってあげられていたら、知っていたら、私にも何かできることがあったんじゃないか?と後悔することも多かったんです。
そのこともあって、「老いについてもっと学びたい」と思い介護の仕事に就きました。
おじいさまが亡くなったことがきっかけだったんですね。


祖父は認知症で、癌を患っていました。治療の為に入院したのですが、病院でも暴れたり看護師さんに暴言を吐いたり…。
最終的には治療を拒否して無理やり退院することになったんです。
治療も拒否してしまったのですか。


そうなんです。退院後、一人暮らしだった祖父は、家で亡くなりました。家にはお酒の空瓶もいっぱいあって。

そんな祖父の姿を見て、私は癌の治療をして、お酒も辞めたらもっと長生きできたのに。なんてわがままなじいさんなんだ…って思いました。
治療と断酒をしていれば、違った未来だったかもしれないですね。


そう思います。でも、そのとき母が「じいさんは昔から病院嫌いやったからな。好きな酒飲んで、じいさんらしい最期やったな。」と言ったんです。
おじいさまの生きざまを尊重されたようなお言葉ですね。


そうかもしれません。
私はこの時に感じた「その方らしい最期ってなんだろう」ということを未だに悩み考えることがあるんですよね。。

「その方らしい最期」ですか。


老いること、最期を迎えることはみんな共通しています。老いていくにつれ、できていたことがどんどんできなくなっていく。どんどん忘れていってしまうんです。
老いに対する思いもその人それぞれだし、周りの人間関係や環境でも変わってくると思うんですよね。
まだ高齢者でも、認知症でもない私は、その方やご家族にとって「老い」とは何なのかを考えて働いていきたいと思っています。
人の老いや最期とは、確かに一言では表せない深いものです…。
実際に介護の仕事を始めて、いかがでしたか?


特養に入職したのですが、私が想像していた介護の仕事とは違って、とてもバタバタしているなと感じたことをよく覚えています。
想像以上に大変だったのですね。


思っていたより大変でした(笑)認知症の方も多かったので、突然怒られたり、何度も同じことを言われたり、とにかく毎日業務を覚えてこなすのがやっとで。

もっとゆっくり入居者さまと関わりたいと思っていたのですが、先輩からは「忙しいから無理だ」と言われたり…。
周りとの温度差も感じることもありました。
彩さんのツイートを見ていると、とても前向きに利用者さんと向き合っていると感じます。
利用者さんと上手く付き合うためにどんな工夫をされたのでしょうか?


認知症について学んだり、この利用者さんはどういう方なのかな?と、一人一人を知っていく事が大切だと思います。
そうすると、対応も少しずつ上手くできるようになって褒められることも増えてきました。

利用者さんとしっかり向き合っていることは、周りには伝わるということですね!

「する介護」から「しない介護」に
彩さんが介護の仕事をする上で大切にしていることはありますか?


シンプルですが「その方の嫌がることをしない」ということです。
一見、当たり前のように思えても、いざ仕事となると難しい場面がたくさん出てくるんですよね。
仕事に慣れてくると流れ作業のようになってしまいがちですが、初心を忘れず大切にしていきたいと思っている考え方です。
人との関わりが多い介護職には本当に大切なことですね。なぜそのような考えを持つようになったのでしょうか?


実は、「相手の嫌がる事をしない」というのは、新人時代の研修で聞いた言葉なんです。

この言葉を聞いて、自分や周りの行動を振り返ってみると、お年寄りにとって嫌であろうこともやっていたことに気づいたんです。
危ないからと動いただけで直ぐに声を掛ける、尿意がないからと安易にオムツを使用する、時間が掛かるからと本人ができる事まで職員がやっている等、「仕事だから」と当たり前のように行われていました。
「仕事だから」はこちら側の都合であってお年寄りにとっては嫌なことかもしれませんね。


そうですよね。しかも、こちらからの過剰な介護や関わりは、時にはお年寄りの生活を制限したりできる事まで奪ってしまう事になります。
一方的ではなく、相手にとって本当に必要なことなのか、そのアプローチ方法は本当に正しいのか、考えながらケアが必要になるのでしょうか。


そう思います。ずっとお世話を「する」ばかりのイメージがあった私にとって嫌な事を「しない」為にはどうすれば良いか、という視点はとても新鮮でした。
さまざまな考え方に触れながら、介護士として経験を積んでいかれた彩さんですが、コスメの販売員と介護士では働き方が大きく違うと思います。
その点で、転職当時は困ったことなどありませんでしたか?


目標やゴール、評価が難しいことには苦労しましたね。。
販売員をしていた頃は、接客マニュアル・商品知識を勉強しそれに沿って働く。目標も売上の数字としてハッキリしていました。
確かに介護の世界って正解がない分、目標設定の難しさがありますね。


介護の仕事も、もちろん基本的な対応や技術、知識のマニュアルはあります。
でも、お年寄り一人ひとり、その時々で違いますよね?完全対応マニュアルはないので、そこに最初は苦戦しました。
臨機応変に対応する力が必要になりますね。


それに、何をしたら良い仕事なのか?何ができたら褒められるのか?ということは毎回変わってきます。
昨日は褒められた事でも、今日はまた違う事が起こったりするので(笑)
最初は本当に苦労しましたが、そこも介護職の面白さかなって思います。
現在はユニットリーダーとしてご活躍されている彩さんですが、これからの介護業界を支える若手に伝えたい介護の魅力があれば教えてください。


介護の仕事は、本当に物語を作っていくようにワクワクする仕事だと思います。
相手が人生の大先輩達なので、もちろん難しいことや辛いこと、上手く行かないこともたくさんあります。
だけど、自分の行動でお年寄りが笑ってくれたり、食事を摂ってくれたり、お風呂に入ってくれたり、時にはお年寄りに助けられることもあるんですよ。
自分の個性を活かして仕事の仕方を工夫できる職業だと思いますし、毎日何が起こるか分からないのも面白く感じてもらえればと思います!

確かに難しいことが多い介護現場かもしれませんが、お年寄りの笑顔はなによりの喜びですよね。
仕事でワクワクできることって素晴らしいと思います!

印象的だった利用者さんからの言葉
時には辛い瞬間や悩むこともあるかと思います。彩さんはどのようにして乗り切っていますか?


先ほどお話した祖父、そして新人時代に出会った利用者さんからの言葉を思い出しています。
当時、ほぼ寝たきりで閉じこもりがちな利用者さんがいたのですが、私が企画したレクリエーションへの参加をキッカケにどんどん明るくなり、たくさんお話してくださるようになりました。
企画したレクリエーションを喜んでもらえるなんて嬉しい出来事でしたね!


その利用者さんに「もう私も歳やし、諦めてなんもやる気なかったけど、あんた来てから楽しいわ。ここに来て良かった!」と言っていただいたんです。
辛くなったときは、いつもこの利用者さんの表情が浮かんでくるんです。
その方にとっても彩さんのことは忘れられない存在になっていたかもしれませんね。


そうだったら嬉しいですね!
老いることって誰でも嫌だし不安だと思います。できることがどんどんなくなっていって、忘れることも多くなっていくので。
だけど、老いるのもそんなに悪くないなって、少しでも思っていただきたくのが目標です!
老いるのも悪くないって思ってもらえたら、仕事のやりがいにもつながりますね!
…とは言っても大変なこともあると思います。彩さんなりのリフレッシュの方法も教えてください!


私は研修に出掛けたりSNSで色んな人の意見を見たりすることが多いですね。自分の視野を広げることを意識しています。
あとは、プライベートではお酒が好きなので、たくさん飲むことでリフレッシュになっているかも(笑)

他の人の意見を大切にする彩さんの人柄がよくわかります。
最後に、彩さんがこれから介護業界へ挑戦する方や、新人介護士にどんなことを期待するか教えてください!


介護職は、自分の思いや考え・経験が仕事として活かせます。さまざまな角度からの視点が必要となるので、一緒に試行錯誤し、楽しく働いていけたら良いなと思います!
ありがとうございました。これからも頑張ってください!


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