介護施設を立ち上げたとき、市民の「閉じ込めとけ」って声はなかった。世の中進んでるなあって
6年前に名古屋で立ち上げた介護施設での話ですけど、ある利用者が四六時中施設から出ていってたんです。
1日40~50回は出ていきまして、出ていくだけなら全然良いんですけれども、その度に反社会的なことをするんですね。
近所の人が大事に育てたアジサイを、いとも簡単にボキボキ折るんです。
ほかにも、傘屋かって思うぐらいにうちの施設に傘が集まってくる。
児童施設じゃないのに子どもの靴があったりとか。
やがては道でウンコしてくるんですね。
人は蹴飛ばすわ突き飛ばすわ、いろんなことが起こるんですけれども。
その一番激しいときが1~2年ぐらい続いたかなあ、その間に一度も「あの婆さんを外に出すな」って言われたことがないんですよ。
「迷惑な施設だから出ていってくれ」って言われたこともないですね。
「鍵をかけて閉じ込めとけ」って言われたことないですよ。
世の中すごい進んでるなあって思って。
そんななか一番びっくりしたことが、その人を事例にした地域包括の検討会であったんですね。
「どうやって認知症の人を支えるか」について話し合うために、市民の代表だとか民生委員さんだとかデイサービスの方が来ていました。
どんな話になるのかなあと思って聞いていたら、デイサービスの人は「やっぱり認知症の人の安全を守るためには、鍵をかけて閉じ込めるべきだ」って主張されたんですね。
それに対して、行政は黙ってましたけど、市民の方々は「閉じ込めるな」って言うんですね。
すごいなあと思って。
周囲の支えがない環境でグループホームを運営することは無理
かつてはグループホームが建設されるとなったら、「痴呆のグループホーム建設反対!」とか書かれた横断幕がいつも掲げられていましたからね。
なかには反対住民集会というのも起こりましてね。
僕2回行きましたもん。
「グループホームとはそもそも何かを住民に説明してくれ」ということで、事業者側を代表してしゃべることになったんですよ。
その反対住民集会で、最後に住民から素晴らしい質問が来まして、「ここまでの住民と事業者の話し合いを経て、和田さんはここにグループホームができるのは、賛成か反対か」って聞かれたんですよ。
「反対」って言ったんです。
僕はここにグループホームできるの反対だ、って。
ここにグループホームができたら、ここで暮らす人は皆さんに応援してもらわないと暮らせない。
あるいは、ここで働く人たちは皆さんと顔を合わさなければ働けない。
つまり、グループホームとは「地域住民の一員として、そこで暮らしを再構築していくこと」なんですね。
だから、事業所との良い関係がないままに、ここにグループホームができることには大反対だって言ったんです。
今の話は10年ぐらい前のことなんですけれども、この10年間の介護現場で僕がすごく変わったと思うのが、その名古屋の施設の周りの人たちの声。
もう本当に、これまでの時代から思えばビックリするようなことですよ。