

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部
リーダーはやる気のない職員に対して、どうアプローチするのかを考えなければ(三田村)
中村 三田村さんの著書「介護リーダーが困ったとき読む本」に現場リーダーが壁にぶつかる様々な場面が書いてある。やっぱり、やる気がない人、迷惑なほどモチベーション低い人、指示待ちスタッフの対処法がありますね。


三田村 コミュニケーションなので事例によって対応は違ってくる。やる気のない人はとりあえず仕事が好きじゃない。リーダーはその職員に対して、どうアプローチするのかを考えなければなりません。
中村 やる気のない人を変えるのは難しい。前編でも話したけど、その結果はその人が培ってきた人格だから。迷惑がられても平気ってレベルは相当重症ですよ。


三田村 私が経験したケースを話すと、あるAさんのことを私はずっと毛嫌いしていたけど、それではダメだと思って趣味の話を聞いた。その人の場合は大型バイクが好きだったので、仕事の話ではなく、バイクの話をすると会話になるわけです。
中村 毛嫌いして距離を置くのでは、なにも進展しない。立場が上のリーダーが譲歩してコミュニケーションをとるってことですね。


三田村 お給料がでたとき、今度どこか行くんですか?とか聞いたんですよ。すると、ここに行くとか、このパーツを買うとか向こうから話してくる。お給料が出るたびに聞き続けて、趣味のバイクを続けるためにはお金が必要ってなって、半年くらいしてやっと仕事にリンクしました。そこからだんだんと仕事に前向きになりましたね。
中村 えー。そこまでやるのは、もはや介護じゃないですか。利用者の介護だけではなく、職員の介護までやるのはキツイですよ。


三田村 現状を変えるためにリーダーには、そこまでやるように言いますよ。もちろん。中村さんと私のベースの考え方が違うな。わかった。今、介護っておっしゃいましたけど、中村さんはそこまでやる必要ないってこと?
中村 そういう人は相手にしてきたけど、途中で諦めた。大人の社会人の介護は、マジでキツイ。ここまでヒドイのは、事業所ではなく、親とか義務教育を受けた市区町村のせいじゃないかって。親とか義務教育がやることを、どうして介護事業所が押しつけられるの?って疑問に思ったね。


三田村 ははは。市区町村のせいってすごいですね。わかるけど、それを言っちゃったら現場が変わらない。ずっとそのままか、悪化の一途。目的は現状から良くすることだから、採用して入職してしまった以上、そこまでやるしかない。もう、仕方ないこと。
中村 まあ、人員基準もあるし、辞められたら困るわけだからね。でも30歳、40歳になってやる気がなくて、挙げ句にみんなが迷惑して、事業所はその人が働く気を起こすために時間とか研修費をかけるとか、いくらなんでもおかしいなと。

一人で抱え込まずに、情報を共有することで、自分自身の重荷を少なくする(中村)

三田村 いつも研修で言うのは、この事例はこうだけど、この人の場合は違うかもしれないってこと。人があってのコミュニケーションだから完全な個別対応で正解はない。だからAの場合ではBですよ、とは言えないんですよね。
中村 人手不足で続々と失業者が送り込まれている現状で、介護業界で働くならそこまでやらないと、よくならないってことですね。すごくレベルが低い話だけど、リーダーは我慢、忍耐、温かい心ってことか。


三田村 それが出来たらリーダーも成長するじゃないですか。介護の仕事を通じて、職員それぞれが成長できればいい。なんの職業でも一緒ですよ。
中村 いやいや。個人的な意見だけど、高校とか大学卒業して社会経験も積んだ大人の社会人を相手に成長、成長って違和感あるよ。出版業界では成長なんて言葉は聞いたことないよ。他の世界だったら普通に働くまでに介護が必要な状態だったら、無理、辞めれば?で終わっちゃうよね。


三田村 まあ、中村さんは一般的ではないですよ。性善説みたいな感覚が一切ないし、どうしてそうなっちゃったの?
中村 介護にかかわったときは、驚いたよね。なにも知らないでかかわって福祉とか介護って堅いイメージがあって、普通の常識人だらけと思っていた。蓋をあけたらとんでもなくて、マジで驚愕した。眠れないくらい驚いたかな。


三田村 ははは。そんな考えで入ったらビックリするでしょうね。やっぱり一人で考えてすんなり業務が進むみたいな世界じゃなくて、業務が終わらないって人もたくさんいる。時間内で終わらせることが課題であれば、今やっていることを全部書きだします。
中村 一人でやる仕事じゃないから分配しないとね。パンクする人、精神を破綻させる人って真面目で責任感が強くて、人に任せないって決まっている。


三田村 そうそう。書きだした業務から他のスタッフでもできることをピックアップする。任せられることを決める。それから、やらなくていいことを決めてもらう。今やっていることに足すことのほうが楽なんだけど、そうでなくて人に任せることを提案するんです。
些細なアプローチを揺さぶりかけることで、人の心を動かす(三田村)
中村 介護現場でリーダーというか立場が上の奴が下に偉そうにして、破綻みたいなことは何度もみた。ウンザリ。パワハラみたいなのは30歳以上の男に多くて、職員と普通に接するように言ってもなかなか伝わらない。介護には小さな序列みたいなのにこだわる男性が多い。すごく迷惑。


三田村 私は「あなたに職員が誰もついてきていない」と、その現状はどういう理由があると思いますか、みたいなことを聞きます。
中村 えー。ヒドイ言葉を使うと、その理由は小者とかバカとか、性格が悪いとか勘違いしているとか、もう元も子もないことじゃないですか。そんな本当のことを誰もなかなか言えないし、言ったとしてもわからないでしょう。さらに険悪になるだけ。


三田村 (笑)。私はハッキリとその本人に聞きますよ。あなたはどう思われていますか? って。本人は「自分は正しくて、スタッフが悪い」って始まりますよね。そこからスタッフのどこがどう悪いのでしょうかと、具体的に聞く。結局、信頼関係がないってこと。信頼関係がないのだから、なにを言っても受け取られないのは当たり前ですよねって言います。そこから信頼関係を作るには、どうしたらいいのでしょうって本題に入っていく。
中村 問題がある相手に、淡々と事実だけを突きつけるのはすごい。さすがだ。本当のことを言うのは残酷で、介護選ぶような優しい性格の人にはなかなかできない。人がついてきてないことをハッキリ通告して、なにを変えれば人がついてくるの?


三田村 だから考え方ですよ。思考。言い訳をして逃げさせるのではなく、自分が変わって信頼関係を作ったほうが楽しいし、自分にも得ってことを気づくまで言い続けるの。特に、男性かな。ちょっと大きい会社で役職していた人が、介護に入った場合が困難、考え方がかみ合っていないってことがよくある。
中村 無駄にプライドが高い中年男性を捕まえて、最悪の結果や現状を突きつけて、変えさせるのか。毎日が修羅場みたいになるね。三田村さんの論理だと、切ったほうが早い、みたいな僕の考え方も逃げの一つとも言える。なるほどね。


三田村 だから、人員基準があるから切れないの。モチベーション低いスタッフについて研修をやると、そんな人辞めればいいのにって声は聞こえてくる。そう思うのはわかるけど、でも介護の現状を考えたら辞められたら困る。だから職員のケアに踏み切るしかない。それに自分のアプローチとか、考え方を変えるしかないの。
中村 多くの事業所は利用者のケアだけで精一杯だし、それだけの介護報酬や賃金しかもらっていない中で、職員の介護はキツイ。リーダーに著しい負担がかかるよね。それに言って直る程度だったら問題にならない。人に迷惑かかっていたら、普通どこかで気づいて改善するでしょ。


三田村 職場での出会いで、その人が成長できたらいいじゃないですか。成長することは中村さんが嫌いでも、それは素晴らしいこと。そういう結果がでているのをたくさん私は見ているので、そう言うの。私自身が変わった経験があるし、結果もたくさん出しているから、言っても仕方がないだろう、みたいな感覚はないんですよ。
中村 まあ、結果として僕が介護事業所を失敗したのは、そういうところが悪かったってことか。性善説が少ないというか、人に対して粘り強くなかったわけね。


三田村 まあ、そうでしょう。はい。だからヒドすぎたとしても、変わるってすごいことって感覚があればよかった。中村さんのなにかしらのアプローチで、その人たちが変わったら本当に素晴らしいことじゃないですか。
中村 でも自分は人を変えるみたいなことに興味ないなぁ。責任が重すぎるし…まあ、いいか。

一つの視点にこだわらず、別角度からの捉え方や見え方で、物事を把握できる(三田村)

三田村 ケアマネの前は歯科衛生士でした。ケアマネ試験は一度落ちて、落ちた1年間で介護の勉強をして、それでケアマネに。在宅のケアマネです。
中村 人のせいにばかり、言い訳と自己正当化ばかりのケアマネが、どう変わっていったのでしょう。


三田村 会社が組んだコーチングが分岐点だけど、最初はまったく響かなかった。私には必要ないもの、自分には関係ないことってスルー。面談で上司と話しているとき、あなたはどうしたいのか考えてって言われた。自分の環境とか状況とか重なって、たまたま響いてそこからですね。
中村 たまたま会社が準備したコーチングが響いて、視点を変えるキッカケがあったわけね。今までは人のせいにするのが正しいと思っていたけど、そうではなかったと。


三田村 目の前の書類を作ることが大変でできません、じゃなくて。そこで利用者のため、自分のためって視点を変えた。そこからスタート。11年くらい前のこと。
中村 昔の三田村さんだけでなく、介護には人のせいにする、言い訳ばかりという人が膨大にいるけど、その状態だと生きづらいというか、自分にも良いことは、なにもないよね。


三田村 人は誰もついてこないし、孤独ですよ。すぐに変わったわけじゃないけど、考え方を変えてから仕事がうまくいった。ケアプラン数が増えて、私が変わったことを会社が知ってヘルパーさん対象の研修講師を任された。そうしたら、その事業所の利益があがって人事部の研修担当に異動して、どんどん規模が大きくなって現在に至るみたいな。
中村 事業所レベルを超えて社内で出世して、さらに起業するまで規模が大きくなったと。それはすごいね。介護の会社で個人の能力を生かすみたいなことは少ない。いい会社だ。結局、問題がある人にハッキリと物を言うことがすごく大切、という結論に。


三田村 現状がわからないとスタートもできない。やって欲しいことを、ちゃんとわかるように話すってことは本当に大切ですね。やんわりいって気づく人は自分で気づくから。介護業界で多いのは、リーダーがはっきりと言えないこと。まずリーダーがはっきり言えない自分と向き合うことが必要なのですよ。
中村 なるほどね、理解しました。介護業界は現場の根幹であるリーダー数が足りないと言われている。三田村さんにはその厳しい研修で、続々とハッキリと物を言えるリーダーの育成を期待しています。
