今回のゲストは、グループホーム相浜ガーデン(運営:株式会社ケアサービス・まきの実)で働く介護士・吉田卓博さん。彼が同施設でのキャリアをスタートしたのは42歳のときでした。勤務先の閉鎖がきっかけで始めた介護の世界は戸惑いだらけ。しかしその葛藤を乗り越えた今、「介護の仕事は面白い!」と吉田さんは断言します。ミドル世代のリアルな転職ストーリー、必読です!

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Profile 介護士 吉田 卓博さん

地元・千葉の高校を卒業後、都内ガソリンスタンドに12年間勤務。店長として活躍していたが、半導体製造工場へUターン転職した。工場閉鎖にともない、2013年に株式会社ケアサービス・まきの実へ入社。今年1月には管理者へ昇進した。妻と子ども2人の4人家族。

経歴      
1989年〜2001年 ガソリンスタンドにて勤務
2001年〜2013年 半導体製造工場でライン長補佐として活躍
2013年11月 株式会社ケアサービス・まきの実へ入社
2022年1月 同社のグループホーム管理者へ着任
長所 我慢強い
短所 おおざっぱ
趣味 釣り
特技 料理

40代・未経験から始める介護のお仕事

これまでのご経歴を教えてください。

転職経験は2回あります。地元の高校を卒業した後は、都内のガソリンスタンドへ就職しました。当時はバブル期だったこともあり、東京への憧れがとにかく強くてね(笑)。自動車整備士や危険物取扱者の資格も取得し、20代後半には店長に昇格しました。

充実した毎日ではありましたが、高齢の両親が心配になり、30歳頃に千葉へUターンしてきました。こちらに戻ってからは半導体工場で働いていましたが、僕が42歳になる年、工場が閉鎖してしまうことに。その後、介護士として株式会社ケアサービス・まきの実に入社したという経緯です。

Before After
雇用形態 正社員 正社員
業種 製造業 グループホーム
職種 製造ライン長補佐 介護士
勤務時間 8:30~17:30 7:30〜16:30/10:00〜19:00/
16:30〜翌9:30(シフト制)
休日 週休2日のシフト制 週休2日のシフト制
仕事内容 半導体製造 身体介助・生活支援

地元に戻られてからは、ご両親の介護をご経験されたのですか?

幸い、両親は介護を必要とするほどではなかったため、介護士として働くまで高齢者ケアの経験はゼロでした。ただ、前の会社から工場閉鎖の通達があった際に、転職に向けてヘルパー2級(現・初任者研修)の資格を取得したため、実習等の経験はありました。

当初から介護業界に焦点を当てた転職活動だったんですね。

これからの時代、確実にニーズが増える業界であることに魅力を感じました。地方でも必ず働き口がありますしね。それに、介護って「いずれは我がこと」じゃないですか?自分や家族も含め、誰もが等しく年老いて、介護をしたりされたりが必要となります。就職のためはもちろんですが、勉強しておいて損はないと思いました。

吉田卓博さん

現在の勤務スタイルを教えてください。

3交代制のシフト勤務です。休日は週2日、夜勤は月5回程度ですね。夜勤は年齢とともにちょっとしんどくなってきたなとは感じています(苦笑)。ただ、介護業界は職種の幅が広いのが魅力ですよ。資格等を取得しキャリアを積むことで、自分の健康や家庭の事情に応じて、現場職から事務職に変わることもできます。長く働ける業界なのがありがたいです。

1週間のスケジュール

不安と迷いを乗り越え見つけた、創意工夫の面白さ

働きはじめた頃のご様子などお聞きしたいです。

とにかく不安と戸惑いの連続でした。前職の工場では「モノ」と向き合う毎日だったのが、人とのコミュニケーションが必要な仕事に突然変わったわけですからね。その上、配属先がグループホームとなり、認知症の方がお相手ということで、何をやっても利用者様の反応は予期せぬものばかり。先輩のケアの様子を見て、勉強する毎日でした。

また、看取りをはじめて経験したときも衝撃でした。自分はもっと何かできることがあったんじゃないかと、随分葛藤したものです。より良いケアを提供できる人間になりたい。そう改めて心に誓った出来事として、今でも深く胸に刻まれています。

介護士のキャリアも8年目となりますが、業務に対する気持ちはどのように変化していきましたか?

当初の戸惑いを乗り越えた後は、仕事が面白くなる一方でしたね。相手や状況に応じて声かけや接し方のパターンを変えてみることで、期待した通りの結果を得ることができるようにもなりました。「次はこうしよう、今度はあれを試してみよう」と、毎日がトライアンドエラーの連続で刺激的です。そして、その試行錯誤の結果についても、目の前の相手から即ダイレクトに答えが得られるのが介護の面白さのひとつ。工夫のしがいがありますよ。

吉田卓博さん

相手に応じたケア方法、具体的な例を教えてください。

たとえば、入浴を拒否される利用者様には「今日は◯◯さんが一番風呂だよ!」と特別感を演出します。すると「え、そうなの?じゃあ入ろうかな!」と笑顔で浴場へ向かってくださるんですよ。でも、これも正解は1つじゃなくて、その方がどういった部分にこだわりを持たれているか次第なのが面白い。まったく異なる切り口からのアプローチが、相手の心を動かす場合もあります。その人のこだわりが一体どこにあるのか?それを探す過程がとても楽しいです。

もともと、創意工夫をして答えを導き出すような作業がお好きなんでしょうか?

そうかもしれません。趣味が「釣り」なのも同じ理由なのかな。釣りってなかなか釣れないからこそ面白いんですよ。同じ種類の魚を狙っていても、いつも同じエサと竿で釣れるわけではありません。だからこそ、日々変化する天候や潮の流れを読み、状況に応じて釣具を変え、試行錯誤することが必要。PDCAの繰り返しが肝という点で、介護の仕事に通じる部分があると思います。

それに、偶然かもしれませんが、この施設には釣りが趣味のスタッフが多く、同じような感覚を持つ仲間が集まっているようにも感じます。スタッフそれぞれが工夫したやり方を共有し、さらにより良いケアに向けてアイデアを出し合って実践する。理想のゴールに向けて何度も現状を練り直す作業が好きだからこそ、みんな楽しみながら働くことができているのかもしれませんね。

吉田卓博さん

役者になって演じ切る!本気の声がけで真剣勝負

趣味で培った感覚が介護の仕事に活きているんですね。では、これまでのお仕事の経験で、役に立っていると感じるスキルはどういった点ですか?

接客スキル、そして「役割を演じ切る」という経験です。

ガソリンスタンドで店長をしていた頃、業界の接客コンテストに何度も出場しました。首都圏から選出されたスタッフが、ロールプレイングで接客の技を競う大会です。そこで学んだのが「役になりきる」こと。たとえ舞台が架空のものであっても、恥ずかしがったり照れたりすることなく、サービススタッフとして全力のおもてなしを提供する。また、これを繰り返すことで、実際の現場でも発揮できるレベルの高い接客スキルが身につくのだとも実感しました。

先ほどの「一番風呂だよ」というシーンでも同じですね。「適当にうまく言ってごまかしておこう」と、声かけを単なるその場しのぎの手段と捉えるのではなく、利用者様の気持ちを盛り立てる姿勢を貫くこと。自分が発した言葉・自分に課せられた役割を最後まで責任を持ってやり遂げる意識が、介護者には必要だと思います。そうでなければ、利用者様の心に何も響きませんから。

なるほど、演じることの大切さ。面白いお話です!

グループホームは少人数制で、利用者様との距離が近い施設です。一人ひとりと真剣に向き合える余裕があるからこそ、マニュアル頼みにならない、心の通じる介護を目指したいと思っています。特にうちの会社は異動も少なく、僕も8年間ずっとここ「グループホーム相浜ガーデン」に勤務しています。スタッフがじっくりと施設に腰を落ち着け、利用者様と関係を深めていくことで、家庭と同じような安心できる環境をつくれるのではないでしょうか。

吉田卓博さん

ほかに、業務を行う上で吉田さんが意識していることは?

利用者様のちょっとした変化も見逃さないことを心がけています。だから、利用者の皆さんの表情をまず確認することが出社直後のルーティン。「◯◯さん、普段より機嫌がいいな」「少し調子が悪そうだな」など、お顔や雰囲気から感情を読み取って、それぞれへの1日の接し方・声かけのやり方を決めるんです。他のスタッフに「◯◯さんって何かあった?」と聞いたり、僕から「今日はいつもと違うみたいだよ」とつなぐこともあります。介護記録に書くほどでもない、ほんの些細なことも共有しておきたいですね。

注意深さと、スタッフ同士の密な連携が重要なんですね。

介護施設では、スタッフ間の連携が最も重要だと思います。複数のスタッフで利用者様をみているので、しっかりした共通認識を持たないと施設がうまく回りません。スタッフがそれぞれ違うことを言っていたら、利用者様側にも混乱が生じてしまいますから。

連携が取れる職場づくりに向け、スタッフ一人ひとりができる努力って何でしょう?

普段から何でも言い合える、おおらかな空気感をつくることでしょうか。僕自身、40歳を超えての転職で不安だらけのスタートでした。それでもここまで楽しく仕事を続けられているのは、人間関係に恵まれたおかげだと周囲のみんなに感謝しています。

グループホーム相浜ガーデンは人生経験が豊富なスタッフばかりで、業務面だけでなく人としても学ぶことがたくさんあります。気軽に相談できる自由な雰囲気、お互いを気遣う思いやりのある関係性。スタッフ全員がこの2つを意識できているのが自慢ですね。

吉田卓博さん

管理者へ昇進。新天地でのチャレンジに向けて

吉田さんの今後の目標を教えてください。

来月から、別の地域にあるグループホームの管理者になることが決定しています(取材日:2021年12月)。楽しみでもありますが、正直なところは不安が8割ですね(苦笑)。管理者としてはじめての業務を覚えることはもちろん、利用者様・スタッフと1から関係を構築する必要があります。とにかく、新しい職場に早く慣れることが当面の目標です。

ご昇進されるということですね!おめでとうございます。では、管理者としてこんなグループホームに育てていきたいといった理想はありますか?

介護施設ではなく「我が家」だと利用者様に思っていただける、温かい空間にすること。また、今まで自分が積み重ねてきた経験を信じて、質の高いケアを提供できるグループホームでありたいです。

モチベーショングラフ

スタッフの育成など、人材マネジメントも大事な仕事になりますよね。

介護の仕事は「自分で気づく」ことが大切です。マニュアルの押し付けではなく「失敗を恐れずやってみる」ことをスタッフ達に伝えていけるといいですね。まずは自分の頭で考えて実践してみて、それでも分からない・うまくいかない点は、僕や他のベテランがフォローする。そんな体制をつくっていきたいです。状況に応じて自分で考える力を持つ人材を育てることこそが、将来の福祉業界の発展にもつながると思います。

また、現在の「グループホーム相浜ガーデン」の、自由で懐が深い職場環境はお手本のひとつ。何も格好付ける必要なく、悩みや迷いを気軽に口に出せる雰囲気には、これまで本当に救われてきました。異動先の施設でも目指したい姿です。

これから、介護の世界を目指す人へのメッセージをお願いします。

「介護は人生」である。常日頃、僕はそう考えています。人生の先輩である利用者様から、日々学び・得られる知見にはかけがいのない価値があります。利用者様は自分の将来の姿ですから、老いることや人生の終末に向けた心構えも教えてもらえました。高齢者の方と関わりを持つことは、これから先、自分が生きていくことにとってプラスになるはず。介護の仕事、面白いですよ!

吉田卓博さん

写真提供:株式会社ケアサービス・まきの実