「介護対談」第16回(後編)中田光彦さん

「介護対談」第16回(後編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんとNPO法人風の詩理事・中田光彦さんの対談中田光彦
1955年北海道出身。NPO法人風の詩理事。横浜市介護認定審査会委員。淑徳大学卒業後、横浜市の特別養護老人ホームの生活相談員として勤務。現在は鎌倉市社会福祉協議会登録ホームヘルパーとして高齢者介護に携わる一方で、講演や介護教室・職員研修、テレビドラマの介護監修等を行っている。主な著書に「はじめての介護: 介護する人・される人がラクになる、リアルなノウハウを解説!」(学研パブリッシング)「中田光彦流発想転換の介護」(中央法規出版)「楽する老人介護―食事・排泄・入浴・痴呆のアドリブ介護術」(雲母書房)などがある。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書)は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

更新

介護保険になってからは、ただ遊んでいることは介護として認められない(中田)

中村 措置時代には、どうしようもない施設が膨大にあったことは事実で、反対に、活気があって一生懸命やっているところも多かった。前編は、介護保険の時代になってサービスが均一化されて、介護施設に個性がなくなったという話でした。

中村中村
中田中田

中田 介護職たちは施設長とケアマネを口説いて、自分自身や高齢者のためにもっともっと楽しくやらないと。今のままではつまらないでしょう。

中村 楽しくやった高齢者との時間をそのまま記録して、国保連に報酬を請求したらまずい。ケアマネはすべてを理解しながら、うまく調整して欲しいってことですね。

中村中村
中田中田

中田 一応介護保険にそって計画して、つまらない文章にして、現場の様々な出来事を介護保険上のケアとして成り立たせるのがケアマネの望ましい仕事ですよ。それが本当のケアマネ。介護保険になってからは、ただ遊んでいることは介護として認められない。それを介護的な言葉に変換していくというのかな。

中村 実際は遊んでいるけど、言葉上では機能訓練みたいなことですね。特に特養やグループホームになるとそこに住んでいるわけだから、遊ぶなっていうのは酷な話。今の介護保険だと死ぬまで機能訓練しなきゃならない。確かに制度を真に受けるほうが無理ありますね。頭の固いケアマネがいる反面、制度に介護職員がついていってないし、おかしなことになっています。

中村中村
中田中田

中田 中村さんの著書に介護職員が破綻していることが書かれていましたが、まあ、時代の流れでしょうね。10年くらい前から悪い方向にカオスになるだろうとは思っていましたよ。これから入居者に外国の方も増えますし、だから僕はいろんな人がいたほうがいいと思う。元受刑者もいてもいいと思いますよ。介護施設は社会の縮図ですから。

中村 社会の縮図にしては本音と建前が多すぎますよね。ほとんどの人が自分の個性や能力をいかしているとは思えないし。公的事業だけど公務員ではない。なにかに強く拘束されるほどの報酬をもらっているわけでないんだし、もっと自由にやるべきですよ。

中村中村

低所得層に固定されつつある今の介護職より、これからの高齢者のほうが何倍も遊んでいるし対等ではなくなる(中村)

中田中田

中田 多くの介護職員は押さえつけられています。そんなに我慢していないで「やっちゃえよ」って思うんですが。施設長が対象の研修の講師を担当したとき、職員は1から10まで指示しないと動かないっていう。反対に職員は言われたこと以外はしてはいけないと思っている。お互いがズレているんですよ。だから今は不満を抱えながらも、ぶつからない。職員は上司と喧嘩しない。無言で辞めていきますよね。

中村 もっとぶつかっていけば、お互いをわかりあって、もっと楽しくなるってことですか。職員の諦めみたいな感情を解くことから始めないといけないですね。どうせ自分は出せないって割り切ったら、1から10まで指示されるほうが楽ですし。楽に慣れると、なかなか元には戻らないですよ。

中村中村
中田中田

中田 言われるまま仕事をして、自分が主体的になにもしないほうが楽。相談を聞いていると、言い訳ばかりですよ。例えば、「僕はやる気はある。でも施設の方針が酷過ぎる。こんなヒドイところ。だからできないんです」みたいな。簡潔に言いますよね。「やる気があるなら、やるしかないだろ」って。介護はどんな施設でも引く手あまただから、好きにやれって。

中村 そういうレベルの人にアドバイスを求められるのですか。厳しいですね。どんな環境でも高齢者のためにプラスと思ったことは、どんどんやったほうがいいですよ。弊害となる人間と争いになるかもしれないけれど、自分が我慢して思考停止したらその時間は無駄な時間。若い人だったら取り返しがつかなくなる。

中村中村
中田中田

中田 これから高齢者はどんどん変わっていくし、僕も今年61歳なので、だんだん近づいている。今までは「高齢者は」なんて話がされているけれど、もう全然違います。認知症の方にも、去年までスマホもパソコンもバリバリやっていた方がぼけてしまったとか。これからはスマホを持ってポケモン探しに徘徊するみたいな高齢者が出てきますよ。

中村 ますます現在のレクリエーションは厳しくなってきますね。低所得層に固定されつつある今の介護職より、これからの高齢者のほうが何倍も遊んでいるし、対等じゃなくなりますね。どうなるか想像がつかないです。

中村中村
中田中田

中田 一般的なレクリエーションではデイサービスなんて誰も行かないだろうし、行ったとしても全員がスマホで遊んでいるんじゃないですか。

中村 デイサービスは在宅高齢者が、デイサービスをキッカケにして社会との接点になるという場所です。選択肢が多くて、懐が深いほどいいですね。

中村中村
中田中田

中田 社会でお金を使えるキッカケになります。家族もその間、自由にできるでしょう。デイサービスにせっかく来てくれたなら、そこからいろんなところに遊びに行ってほしいですよね。お金を子供に残さず、どんどんお金を使って。明日はゲームセンターに行くから休むとか。デイサービスはそういう方向にシフトしたほうがいいと思いますね。

中村 人生の終末期に持っているお金をどんどん使って、思い残すことがないようにやりたいことをやると。

中村中村
中田中田

中田 そうですよ。今は“デイサービスに行くことが最終目的”みたいな考えの人がたくさんいる。それは違うだろうって。デイサービスは段階的にあったほうがいいですよね。

僕が戦った最初の頃は20代だったから。自分が正しくて、まわりが間違っていると強く思い込んでいた(笑)(中田)

中村 中田さんのお話を聞いていると、「介護はユルくていい」という再確認ができます。介護職にはホストとかキャバ嬢みたいな人とか、食えないアーティスト系の人とかが大勢流れていて、そういう人たちの能力に蓋をされているのが歯がゆい部分です。

中村中村
中田中田

中田 僕なんかは、一貫してなにも真面目に考えていません。担当になったおじいちゃん、おばあちゃんの、どこをいじったら面白いかなとか。なにをしたら食べてくれるか、どうしたら風呂に入ってくれるか。テレビを見ていて、この人はなにに興味を持つだろうかとか。どうしたら自分が楽しめるだろうな、しか考えていない。

中村 介護を取っ払って、対人間としてなにか一つのキッカケをつかもうってことですね。距離が縮まればどんどん介護する側も面白くなるし、高齢者のADLも回復するだろうし。まあ、介護する側にそれなりの人間的な魅力が必要ですが。

中村中村
中田中田

中田 深く考えることなんてなにもないですよ。ケースファイルを見たってまったく面白くないし、話して気づいたらやっちゃえばいいだけ。ダメな施設の人に話を聞いたら、「うちにはパチンコ行きたい、酒飲みたいなんて希望者いないです」とか平気で言うの。まず高齢者は入居した施設でどれくらい暴れていいのかって探るわけです。

中村 そうはそうですね。学校でいえば校則みたいなものを理解しないと動けない。校則が厳しいところで暴れる人はいないし、厳格なところでエロ話をする人はいないし。

中村中村
中田中田

中田 ああ、ここはエロい話をしても、なにを言っても大丈夫だって。だんだんとわかって慣れて、年中いろんなところに連れて行って、そういう生活の中で1年くらい経ったとき、初めて人間の本当の欲望って出てくるんですよね。厳しい、頭がガチガチの職員しかいないところで、「したいことありますか?」なんて聞いてもあるわけない。

中村 気づいて「やろう」ってなっても、反対する声が必ずあると思う。介護職は基本的に我慢をしているので、遊びを知らないつまらない人が多い。どうすればいいのでしょう。

中村中村
中田中田

中田 僕が戦った最初の頃は20代だったから。自分が正しくて、まわりが間違っていると強く思い込んでいた(笑)。だから暴走ですよ。結果としてまわりに、ものすごく迷惑をかけましたよね。全職員対僕一人みたいな感じだったので。職員一人ひとりとよく話し合いました。本当のニーズとか欲望を掴む、それで自分を信じて行動するってことが大切ですね。

虐待はお互いが不幸になるから、やっぱり今まで通りに撲滅する努力は続けていくべき(中村)

中村 措置時代と比べてサービスは均一化したとおっしゃっていましたが、介護ベンチャーの流行などを経て、この数年はその中でも二極化が進んでいるような気がします。

中村中村
中田中田

中田 30代、40代が頑張っている人は増えていますよ。一ついいところができると、周囲が影響されていくのでね。いい方向に向かってほしいなとは思いますね。逆に、いろんなストレスを抱えるようになって。ご存じのとおり、人間は弱い方向に矛先が向かいますから、それで虐待になっちゃうとか後を絶たないし。

中村 中田さんは虐待のあった施設などで研修や講師もしています。

中村中村
中田中田

中田 外部の人間を呼ぶってだけで評価はできるけど、虐待した職員を解雇したからといって解決したと思うなよ、と話しますね。他の職員にも問題があるって。一緒に働いていれば、絶対にわかりますから。こいつ、危ないな、そろそろ手を出すなって。

中村 虐待は20代の若い職員と、中年男性職員に多いというデータが出ています。僕は20代の向いていない男性職員は、介護をすぐに辞めることを勧めています。選択肢があるなら、他の世界で活躍したほうが絶対に幸せですから。

中村中村
中田中田

中田 特に今の若い人は表情に出さない。言葉に出さないけど、スマホに“死ね死ね死ね”とか書いていたり。そういうタイプですよね。だから昔よりわかりにくくなっていますよ。昔は苛々が表情に出ている人が虐待していたけど、今は黙っている人のほうが危ない。でも、やっぱりわかりますよね。

中村 予感はしていても人手が足りないから、シフトを崩して外すという決断がなかなかできない。難しいですね。

中村中村
中田中田

中田 特に夜勤は孤独じゃないですか。いいこともできる。昼間忙しくてできない話も夜勤のときにできる。でも、悪いこともできてしまう。朝の報告でおばあちゃんがあざだらけになっていて、「おまえやっただろう?」って聞くと、「向こうが悪いんだ」みたいな。

中村 最近は介護職の虐待だけでなく、高齢者側の職員への暴力やセクハラなども問題になり始めましたね。これからの高齢者は間違いなく、もっと酷くなりますよ。

中村中村
中田中田

中田 僕がやりにくかったのは、認知症より、高い地位にあった高齢者ですね。介護職を下僕みたいに思っている人がいて、あまりに偉そうにするから「ふざけるな、このやろう」みたいなことは何度もありました。ダメなんだけど、暴言して。けど、認知症の行動は理由がある。日頃の鬱憤とかわかってもらえないとか。以前、散々虐待された人たちは、何か月も警戒を解かないですし。それと高齢者ですから、認知症の暴力行為は逃げられますよ。

中村 虐待はお互いが不幸になるから、やっぱり今まで通りに撲滅する努力は続けていくべきですよね。高齢者の介護職への虐待も、まあ僕らメディアが問題にして可視化することはプラスに働くと思っています。

中村中村
中田中田

中田 認知症の人には“あなたのまわりの人は敵じゃないんだよ”とわかってもらう。それからゆっくりと話をしていく。そうすると認知症の人の行動の理由がわかります。ほとんどのケースでは“問題老人”ではないですよ。その前の段階で虐待する若い人が多いかな。その人のことを追求していないから起こってしまうこと。

中村 今まで、おっしゃっているようなことを総じて中田さんが提唱するアドリブケアってことですね。

中村中村
中田中田

中田 人間は日々を生きています。プランを立てて、その通りに動くっていうのは無理がある。毎日体調もあるし、気分もあるし、天気もあるし。天気がよくて気分が良かったら、遊びに行こうかとか。その瞬間にならないとわからない。頭の固い人は頑なに入浴が健康にいいと考える。だからお風呂に入ろうってときに拒否されると、その反応が許せないわけ。

中村 介護の制度の矛盾がある以上、全面的に乗ってしまうとみんなが不幸になっていきますね。制度はそう変えられるものではないし、確かにケアマネがその矛盾の調整をしてくれることが望ましいですね。

中村中村
中田中田

中田 やっぱりお風呂に入りたくないときもあるだろうって。いろんなことを考えられる人間っていうかな。シャレが効く、アドリブが効く。そういう人間じゃないと介護はできないし、介護職じゃないだろうと思う。だから僕はアドリブケアっていっているんですね。

中村 ありがとうございました。アドリブケアは1人でも多くの介護職に広まって欲しいです。ユルくていい、と断言していただいて勇気が湧いてきました。

中村中村
介護対談一覧に戻る