「介護対談」第21回(前編)関田典義さん「基本報酬が上がっていくことは考えにくい。介護保険だけに頼らない経営を考えていくことが生き残っていくポイントになる」

「介護対談」第21回(前編)ノンフィクション作家の中村淳彦さんと株式会社医療経営研究所・関田典義さんの対談関田典義
1981年生まれ。株式会社医療経営研究所 介護福祉コンサルタント。介護事業所で、訪問介護、通所介護、居宅介護支援、福祉用具貸与事業等の経営に触れるなど、現場で経験を積んだ後、2006年より現職。現在、多くの介護事業所、介護保険施設、高齢者住宅等の開設支援および運営改善に携わっている。介護業界がより良い方向に向いていくよう、日々奮闘中。精神保健福祉士、社会福祉士、医療環境管理士、ストレスチェック実施者、高優賃コーディネーター、他。
中村淳彦中村淳彦
ノンフィクション作家。代表作である「名前のない女たち」(宝島社新書) は劇場映画化される。執筆活動を続けるかたわら、2008年にお泊りデイサービスを運営する事業所を開設するも、2015年3月に譲渡。代表をつとめた法人を解散させる。当時の経験をもとにした「崩壊する介護現場」(ベスト新書)「ルポ 中年童貞」(幻冬舎新書)など介護業界を題材とした著書も多い。貧困層の実態に迫った最新刊「貧困とセックス」(イースト新書)は、鈴木大介氏との共著。

取材・文/中村淳彦 撮影/編集部

更新

国は本当に効果があるサービスに財源・資源を配分しようとしている(関田)

中村 関田さんは医療経営研究所所属の介護・福祉コンサルタントです。35歳と若く、超エリートビジネスマンのような雰囲気で、介護業界にこういう方がいらっしゃるのかという印象です。具体的にどのようなことを行っているのでしょう。

中村中村
関田関田

関田 業務内容は多岐に渡りますが、大きく4つあります。一つが新規開業のサポートです。詳細な介護圏調査・分析から始まって、事業計画の作成や金融機関との融資交渉、スタッフの募集採用、研修など行います。2つ目は経営のサポートです。昨年の制度大改正を踏まえて、経営の舵をどのように切るか。現状分析を行った上で利用者さんに喜ばれるためにはどういう仕組みが必要かなどを提案します。それらの業務に加えて執筆講演活動、情報提供サポートがあります。

中村 第19回の介護対談で、同じく介護の経営コンサルタント小濱道博さんから、「介護保険法と介護報酬の次期改正は大変厳しくなる」という話を伺いました。介護に関わる人たちには、これからいったいどうなるの?という漠然とした不安があります。

中村中村
関田関田

関田 不安の背景には、まず財源不足があると思います。国としても、介護をもっと手厚く評価したいと思っているでしょうが、財源は限られています。今の社会保障給付費は国庫負担で30兆円を超えています。これは国家予算の3分の1であり、今後も社会保障費はどんどん膨らんでいきます。

中村 どう見てもお金はないですよね。税収50兆円くらいで、年間予算の半分以上は借金。社会保障費のピークはこれからなので、誰でも破綻はわかる。最近は毎日毎日、介護医療年金の社会保障のなにかしらの削減案が報道され、ものすごいスピードで国が動いていますね。

中村中村
関田関田

関田 2060年まで現行の社会保障制度を維持した場合、消費税を57.8パーセントまで引き上げなければならないと試算をしている研究者もいます。仮に100万円の物を買えば、消費税が57万8,000円になります。

中村 高負担高福祉で有名な北欧諸国の倍以上ですね。いくらなんでもそこまでの負担はお金持ちも貧乏人も反対するだろうし、現状維持は考えられないし、日本がそのような社会になりようがないってことですね。

中村中村
関田関田

関田 当然無理です。だから国は必死に財源の抑制を考えているわけです。介護に関しては、本当に効果があるサービスに財源・資源を配分しようという流れにあります。具体的にはアウトカム評価というように、要介護認定で状態が維持・改善した場合などを手厚く評価しましょうという話が出ています。

経営が順調な介護事業所とそうでない事業所。経営の二極化が進んでいる(関田)

中村 僕もその一人でしたが、介護事業所は認可の敷居を下げたことでたくさんの異業種参入があった。要するに、素人でたいした専門性がない法人がたくさんある。そのような法人や事業所が増えてしまった中で、高齢者の状態の改善を求められるのは厳しいですね。すでに息切れして余裕がない中で、要求の難易度が高すぎる。

中村中村
関田関田

関田 昨年の大きな改正で経営の二極化は実感しています。今までは他業種からの参入も多くて、戦略がなくても経営が成り立っていたところがあります。昨年4月以降は、根拠にもとづく戦略を立て実行しなければ淘汰されるようになりました。経営が安定しているところがある一方で、苦しいところが非常に増えています。私のところには、順調な事業所と苦しい事業所の両方からの相談があります。

中村 順調な事業所は事業展開やスタッフの研修に投資、苦しい事業所はまあ稼働率アップや実地指導対策ですか。同じ時間と費用と労力をスタッフ研修へ投資するのと、書類整備では大違いですね。

中村中村
関田関田

関田 その通りで、差がどんどん広がってしまいます。さらに、国が高齢者の状態の改善や在宅復帰を求めてきているので、現状コンプライアンスで躓いてしまうと、これから厳しくなることが予測されますよね。

中村 零細経営者の知り合いが多く、介護コンサルへの不平不満をよく聞きます。視界の範疇では確かにインチキ臭い介護コンサルは多くて、たくさんの事業所がダメコンサルによって追い詰められている。大波がくるだろう次期改正を控えて、コンサル選びでコケたらアウトです。なんとかならないのでしょうか。

中村中村
関田関田

関田 コンサルタントは誰でも名乗れます。資格が必要ないですし。コンサルタントを選択する上で大切なことの一つに、その人物が介護現場をよく知っているか、知らないかということがあると思います。ただ数字だけを動かしているか、現場の実情をよく知っているかで提案内容は変わってきます。

中村 当然、介護現場のことを知らないでコンサルはできないでしょうね。介護はポエムや美辞麗句、性善説文化みたいなのが深く根付いて、言った者勝ちがまかり通っている。悪徳コンサルは経営者の甘さと言葉の操り方を知っているので、騙される人が後を絶たない。経営者も職員も高齢者も不幸なことになる。

中村中村
関田関田

関田 経営者の方にはいろんなコンサルタントと会ってほしいと思います。私が初回面談という形で経営者の方とお会いするときには、必ず「複数の話を聞いてみてください」とお伝えします。内容もそうですし、相性もありますから。複数の中の一つの選択肢として選んでいただいています。

中村 悪徳コンサルは綺麗な言葉を巧みに使ってくるので、この人は大丈夫、大丈夫じゃないというのは見えにくい。異業種の人は超高齢社会なので大きな需要がある、福祉関係者に悪人はいないと思い込んでいるフシもあるし、なかなか判断基準がない。

中村中村
関田関田

関田 私が経営者であれば、契約の前に企画書と見積書を必ず出してもらいます。その中で具体性があるか。口頭だけだと本当にこわいです。いつまでに誰が何をして、どのように成果をだすのか、という具体性は求めた方がいいですね。まあ、通常のことですけど、それができていない現状はあるかと思います。また、コンサルタントはあくまで黒衣です。コンサルタントがいなければ成り立たないのは本来の姿ではありません。事業所の課題をとらえ、ご依頼に対しスポット的に関わって解決していくようなサポートが望ましいと考えています。

具体性をだしてアプロ―チをしたら利用者などからも選ばれるようになった事業所もある(関田)

中村 まあ、うまくいっていない事業所がとにかく欲しいのは稼働でしょう。関田さんは稼働率アップのためになにをしてくれるのでしょうか。

中村中村
関田関田

関田 稼働率の高い低いは結果です。結果には必ず原因があります。初めに行うのが現状分析です。事業所の特徴はなにか、競合事業所はどのような運営をしているか、利用者ニーズはなにかなど、複数の要因を掛け合わせて分析します。最初に利用者やご家族、ケアマネに対してアンケート調査などをして、情報を集めて稼働率が上がらない原因を明らかにしていきます。

中村 特に4万事業所以上があるデイサービスは厳しいところが多いでしょうね。通所でレクリエーションして、食事して、入浴するってどこも同じだし。

中村中村
関田関田

関田 中村さんがおっしゃるように、代わり映えがしなく工夫がなければ埋もれてしまいます。デイサービスにおいても「ひとことで言えるコンセプトや特徴があるか」、それが大事です。強みや専門性を明確にして現場の方を含めて話し合って、コンセプトを立てていくというのがスタートになりますね。

中村 ほぼゼロからやり直すってことですね。大変なことです。信頼できる優秀なコンサルの方が近くにいないと、なかなかそこまで踏み切れない。

中村中村
関田関田

関田 見せ方を変えるだけで、反応が出てくるケースもあります。例えば管理栄養士が2人いるデイサービスがあって、当初は食事が美味しいことを特徴として出していました。でも、それではどこのデイサービスも同じ。「食事で健康管理できるデイサービス」など具体性をだしてアプロ―チをしたら、利用者などからも選ばれるようになりました。今あるものの見せ方を変えて発信するだけでも違った結果が出てきます。

中村 介護は、ブログなどを眺めて一目瞭然ですが、表現力、発信力が極めて弱いですね。自由な人がいない。せっかくいいものを持っていても、うまく生かし切れないのは大きな課題ですね。

中村中村

国が求めていることは加算という形で評価されていく(関田)

関田関田

関田 現在は次期改定の議論中です。介護保険は基本報酬があり、その上に加算が乗って事業所の収入が決まります。国として取り組んで欲しいことが加算として評価されているのです。

中村 昔は送迎加算がありました。最初は加算として乗っていたけど、だいたいのデイサービスができているので基本報酬に含まれる。サ高住やお泊りデイは送迎をしないので減算になると。加算はやって欲しいことのメッセージなわけですね。

中村中村
関田関田

関田 次期改定では中重度要介護者に対応できているか、自立支援につながっているか、地域包括ケアに対応できる体制かなどが問われるでしょう。加算を算定できる体制ならば、減収を補てんすることができると思います。また、介護政策は医療政策とも関連していますので、そちらの動向も注目しなければなりません。

中村 医療と介護の連携みたいなことはよく言われています。詳しく教えていただいていいでしょうか。

中村中村
関田関田

関田 例えば7対1病棟は患者さん7人に対して、1人の看護師が配置されています。看護師を手厚く配置しているので、診療報酬が高く設定されています。2016年度診療報酬改定では、7対1病棟の在宅復帰率が80パーセントまで引き上げられました。「医療から介護へ、施設から地域へ」、というスローガンものと、医療依存度の高い方や要介護の重い方の在宅への流れが加速しています。

中村 病院にいるとお金がかかるから、出しちゃいたいのですね。だからといって在宅に戻れるかというと、なかなか難しい。医療と介護が連携して在宅復帰率を高めましょうってことですね。

中村中村
関田関田

関田 地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟にも在宅復帰率が設けられているので、在宅復帰促進の流れができています。さらに医療と介護だけでは支えられないので、生活支援サービスなども含めて地域全体で支えていく。それが地域包括ケアシステムの構築で、今求められていることです。中重度者の方や医療の必要な方を受け入れられる体制が整わなければ、医療と連携はできませんので。体制が整っているところは、適正に評価されるでしょう。

中村 介護サービスの質という言葉はよく使われますけど、曖昧でよくわかりません。精神論とか感情論に走りがちだし。

中村中村
関田関田

関田 介護サービスの質評価は介護保険制度が創設後から議論されています。難しい問題ですが、基本的には3つの軸で評価をしています。ストラクチャー評価、プロセス評価、アウトカム評価。ドナベディアンの質評価モデルを使っています。

中村 ドナベディアンモデル。医療用語ですか、ちょっと難しいです。

中村中村
関田関田

関田 簡単にいうとストラクチャー評価は、介護福祉士の配置割合が高ければ介護の質が高いなど。プロセス評価は機能訓練を実施したかなど。アウトカム評価は機能訓練などを実施した結果、状態が維持・改善したか、在宅に復帰できたかということですね。

中村 平成24年から老健に在宅復帰・在宅療養支援機能加算。平成27年から訪問と通所リハに社会参加支援加算が加えられています。在宅に戻すという結果をだせってことですね。

中村中村
関田関田

関田 昨年の改正で訪問と通所リハにアウトカム評価が導入されています。3ヵ月の短期集中リハビリテーション、6ヵ月までの生活行為向上リハビリテーションを行って在宅に戻すというアウトカム評価です。これからはそのような結果に対する加算が、多くのサービスに新設されると思います。

中村 今のところ介護事業所は高齢者の生活を支えるだけで精一杯に見えますが、状態をよくしろと敷居が高すぎる要求がくるわけですね。まあ、無理でしょう。

中村中村
関田関田

関田 確かになかなか、難しいところはありますね。6ヵ月で老健から在宅に戻れるかというと、受け入れ先がなかったり。自宅に独居の方が戻れるかというと難しい現状があります。結果的に特養化している老健が増えています。在宅強化型や在宅復帰・在宅療養支援機能加算を算定しているところは、まだ3割程度。理想はあっても現実はなかなかついていっていない状況です。

中村 しかし、基本報酬はどんどん下がる。その敷居の高い要求に答えることができる事業所じゃないと、職員に普通の生活はさせないよってことですね。またエグイことになりましたね。

中村中村
関田関田

関田 基本報酬が上がることは、もうこれからは考えにくい。ただアウトカム評価であったり、中重度要介護者や医療の必要がある方を受け入れたり。国が求めていることは加算という形で評価されていきます。ですので、事業所の状況により異なりますが、加算を算定できる体制の整備も大切です。また、介護保険だけに頼らない経営を考えていくことが生き残りの一つのポイントになります。

中村 介護事業所は激動ですね。家族のためにレスパイト、なんて言っていた数年前がもう楽園のようです。後半も引き続きお願いします。

中村中村
介護対談一覧に戻る