「好きなことを仕事にする」以外、老後の経済的な不安を解消することはできない
生涯現役を貫きとおした日野原重明さん(聖路加国際病院名誉院長)が105歳で大往生をとげました。
リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットが『LIFE SHIFT(ライフシフト)100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)で述べたように、100歳まで生きるひとが珍しくなくなった超高齢社会では、60代で退職して“悠々自適”というこれまでの人生戦略は役に立ちません。
そこでここでは、「老後とはなにか」からこの問題を考えてみたいと思います。
日本人は何歳まで生きるか?
標準的なファイナンス理論にもとづけば、老後の人生設計で大事なのは自分の平均余命を知ることです。日本人の平均寿命は男性80.79歳、女性87.05歳ですが、だからといってこの年齢までの計画を立てておけばいいわけではありません。
平均寿命は、出産直後に死亡した乳幼児も含めすべての日本人の寿命の平均です。50歳まで生き延びたということは、それ以前の平均余命を考える必要がなくなるということですから、当然、全年齢の平均余命を考慮した平均寿命よりも長生きすることになります。
その結果、平均余命は50歳の男性で32.39年、女性では38.13年になります。もちろん平均余命に達したらそれで終わりというわけではなく、男性は80歳、女性は85歳の「天寿」になっても、さらに8年以上の余命があります。

それでは、私たちはいったい何歳までの計画を立てておけばいいのでしょうか。
ここで、50歳以降の5年間の生存率を見てみましょう。
50歳の男性が55歳まで生きている確率は98.06%、女性は98.99%です。
織田信長は「人生五十年」と謡いましたが、世界有数の長寿社会となった日本では50代で死ぬことを考えても意味がありません。
生存率が9割を切るのは男性で65歳、女性で70歳を過ぎてからで、その後、生存率は急速に下がって、男性は80歳、女性は85歳で半分以下になり、100歳を超えるとほぼゼロになります。私たちは、年をとってもなかなか死なないのです。

老後問題とは「老後が長すぎる」こと
「老後とはなにか」それは、「人的資本をすべて失った状態」のこと
私たちが富を手に入れる方法は、原理的にふたつしかありません。ひとつは人的資本を労働市場に投資すること、すなわち働いてお金を稼ぐことで、もうひとつは金融資本を金融市場に投資すること、すなわち資産運用です。
ほとんどのサラリーマンは、定年を迎えると年金以外の定期収入がなくなって人的資本がゼロになりますから、あとは金融市場から富を得るほかありません。
――「老後は誰もがひとりの投資家」なのです(とはいっても、その「投資」の大半は年金というかたちで日本国に運用をアウトソースしているわけですが)。
ここで大事なのは、「老後は自らの意思で長くすることも短くすることもできる」ということです。50代でアーリー・リタイアメントすれば、そのぶん長い老後を過ごすことになりますし、80歳まで現役で働けば、当然、老後は短くなります。
長い老後を維持するためには、より多くの金融資産が必要になります。老後が短ければ、金融資産はそれほどたくさんいりません。老後問題とは、定義上、人的資本を失ってからの期間が長すぎることです。
だとすれば、老後の経済的な不安を解消するもっともかんたんな方法は、老後を短くすることです。
「生涯共働き」を超える最強の人生設計はない
フィナンシャルプランナーのなかには、「人生100年時代に安心して老後を過ごすには退職時点で5,000万円の貯蓄が必要」などと述べて、ハイリスクな金融商品への投資を勧誘するひとがいます。
しかしここで、60歳以降もそれまで培った知識や技能(プロフェッション)で年200万円の収入があり、80歳まで働きつづけられるとしましょう。
そうすると(60歳から80歳までの)20年間で4,000万円の収入を獲得し、老後は(81歳から100歳までの)20年間に縮まります。
この単純な例からわかるように、「生涯現役」なら老後問題そのものがなくなってしまいます。夫婦共に人的資本を維持できるなら収入はさらに増えますから、生活はますます安泰です。――そう考えれば、「生涯共働き」を超える最強の人生設計はありません。
健康寿命を80歳としても、生涯現役ということは、20歳から60年働くことになります。そしてどんなひとも、60年間も嫌いなことをやり続けることなどできません。
逆に「好きなこと」が明確なら、これまでの経験や知識を活かして定年後に起業し、「第二の青春」を謳歌することもできるでしょう。そのうえ、仮に日本国の財政が破綻して年金が受け取れなくなったとしても、人的資本が生み出す富で生活を支えることができるのです。
人生100年時代の人生戦略は、いかに人的資本を長く維持するかにかかっています。そのためには、「好きを仕事にする」ことが唯一の選択肢なのです。
60代、70代になっても人的資本を維持できるかどうかで、高齢化社会の格差はさらに拡大していくでしょう。私たちは、「好きを仕事にする」以外に生き延びることのできない残酷な世界に投げ込まれてしまったのです。
橘玲「幸福の「資本」論」(ダイヤモンド社)より「超高齢社会の唯一の戦略」を一部加筆のうえ転載。より詳しい話に興味のある方はぜひお読みください。
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2020年9月7日 制定