市民後見人の需要は増加するも普及に遅れが!無報酬というデメリットが最大の理由
「成年後見制度」は認知症や精神的、知的障害など判断能力が十分でない人のために、本人に代わって財産管理や契約などの手続きをサポートする制度です。
認知症高齢者の増加とともに、成年後見制度の利用者も増加傾向。親が認知症になり、財産管理のために子どもが成年後見の申し立てを行なうケースが多いようです。
しかし、身寄りのない認知症高齢者は後見の必要があっても、自分でどうすることもできず、市区町村長がやむなく成年後見を申し立てる「首長申立」の件数が急増。
首長申立の場合でも、後見人に弁護士や司法書士などの専門職が選任されると、毎月の報酬を支払わなくてはなりません。
要は、それ相当の収入や資産がないと専門職後見人に依頼することはできず、成年後見制度の利用も難しくなります。そこで、身寄りがなく、所得の低い人でも利用可能な、「市民後見人」に白羽の矢が立っています。
ただ、各自治体で取り組みに差があり、導入が思うように進んでいません。成年後見人のニーズが高まるなか、市民後見人の普及の足かせとなっている原因はどこにあるのか考えてみました。
市民後見人の割合はわずか167件で全体の0.5%!普及の遅れは数字が証明
成年後見制度の利用者数は増加の一途…なのに市民後見人が選ばれない現状に注目
認知症高齢者の数が増えるにつれ、成年後見制度の利用者数も多くなっています。2010年に14万309人であった利用者数は、2013年に17万6,564人まで上昇しました。
「成年後見の申立人と本人の関係」では本人(支援される人)の子がもっとも多く全体の1/3を占めます。
2番目に多いのが、市区町村長による「首長申立」で、全体の14.7%と過去最多を記録。
これは本人の兄弟姉妹による申し立ての約13.7%より多いことに驚かされます。
申し立ての動機としては、「財産管理処分」が全体の半数以上を占め、次に多いものを順番に挙げると、「介護保険契約」「身上監護」「遺産分割協議」です。
成年後見人は家庭裁判所に審判の申し立てを行ない、適任と判断された人が選ばれます。
成年後見制度がスタートした2000年当初は、成年後見人に本人の配偶者、子、兄弟姉妹など親族が選ばれるケースが全体の91%に及んだものの、最近は弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職である「第三者」が選任される傾向にあります。
後見人に専門職を選任すると、毎月、最低でも2~3万円の報酬を支払わなくてはなりません。身寄りがなく、収入も低い、資産もない認知症高齢者は成年後見制度の利用が難しくなります。そこで「第三の後見人」として「市民後見人」の出番となるわけです。
最高裁の2013年の調査では、第三の後見人の割合が57.8%と親族を上回りました。
これは遺産の相続で争いが想定されるなどの理由から親族が選ばれなかった可能性も考えられますが、後見人となる親族が近くにいない、もしくは身寄りのない高齢者が増えている証拠でもあります。
ただ、「市民後見人」が選ばれる割合は全体の約0.5%とわずか。各自治体とも普及が進んでいません。
市民後見人の普及が進まないのは、国と自治体の間の“温度差”が原因!?
研修を受けただけの市民後見人が成年後見の任務を果たせるのか?といった疑問が
「市民後見人」になるための資格はいりません。その代わり、自治体が行う研修を受けたあと、行政の推薦を受け、家庭裁判所の名簿に記載されたうえ、選ばれる必要があります。
現実問題として、行政や社会福祉評議会がバックにないと市民後見人になるのは難しいようです。それもあって「市民後見人は専門知識が少ない、信用できるかどうかわからない」といった声も聞かれます。
しかし、法律に詳しい弁護士だから頼りになる、安心だといい切れるでしょうか。2010~2014年の過去5年の間に、成年後見制度を悪用した、弁護士の着服事件が少なくとも62件起きており、被害総額は約11億2,000万円に上るそうです。
こうした事件の再発防止に向け、東京家裁では「弁護士の推薦を受けた弁護士しか後見人に選任しない」取り組みをスタートさせました。
ボランティア精神だけで市民後見人の仕事をまっとうできるのか?
弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職後見人は、報酬をもらって成年後見の業務にあたっています。東京家裁の例を挙げると、通常の事務の場合、毎月の基本報酬額は2万円。
ただし、管理財産が高額になると管理業務も複雑になるため、1,000万~5,000万円の財産は月額3万~4万円、5,000万円以上の財産は月額5万~6万円と報酬額が高くなります。
一方、市民後見人は社会貢献やボランティア活動としての位置づけです。
多少の報酬を支払う自治体もありますが、「無報酬」としているところが大半です。
利用者のなかには生活保護を受ける必要性が生じたり、借金の返済、家賃の滞納など、予想以上に大変な仕事が待っている可能性もあります。
つまり、「手弁当で後見活動を行なってもよい」といったボランティア精神がないと務まらないのです。
一人暮らし高齢者の増加は今後ますますの成年後見制度の必要性を示唆
認知症や精神障害の人にとって、生活や財産管理をサポートする「後見制度」はなくてはならない存在!?
「成年後見制度」は2000年4月に施行されました。
今年で15年目を迎え、認知度も少しずつ上がってきましたが、「まだ名前しか聞いたことがない」という人のために成年後見制度について簡単に説明しましょう。
「成年後見制度」は「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つに大別されます。
「任意後見制度」……将来、判断能力が不十分になったときに備え、自分で後見人を選べる制度。
「法定後見制度」……認知症や知的、精神障害で判断能力が不十分である場合、家庭裁判所に審判の申し立てを行ない成年後見人が選ばれる制度。支援される本人の判断能力を医師が診断、鑑定した結果、「後見」「保佐」「補助」の3種類に分類されます。
後見人の種類と内容 | ||||
---|---|---|---|---|
後見 | 補佐 | 補助 | ||
対象となる人物の状態 | 判断能力がまったくない | 判断能力が著しく不充分 (ときどきはしっかりしている状態) | 判断能力が不十分 (軽度・最近物忘れが出てきた状態) | |
申し立てができる方 | 本人・配偶者・四親等以内の親族・検察官・市区町村長など | |||
権限 | 必ず与えられる権限 | 財産行為についての全般的な代理権と 取消権※1 | ※2についての同意権と取消権 | ー |
申し立てによって与えられる権限 | ー | (1)※2以外の事項についての同意見、取消権※1 (2)特定の法律行為についての代理権 | (1)※2の一部についての同意権、取消権※1 (2)特定の法律行為についての代理権 | |
制度を利用した場合の資格制限 | 医師などの資格や会社役員、公務員などの地位を失うなど | 医師などの資格や会社役員、公務員などの地位を失うなど | ー |
認知症高齢者の増加も待ったなし!だからこそ市民後見人の制度について軌道修正が必要か
市民後見人の養成や支援を積極的に行なっている自治体は全体の1割にも届きません。「現段階でニーズが感じられない」と回答する自治体も多いようです。
実際に成年後見制度の利用率は2%程度。利用者は増えていても、認知症高齢者の人数を考えると利用率はかなり低いといえます。これは後見制度を利用する人たちに、高額な財産管理を必要とするケースが多いことも一因でしょう。
ただ、今後は財産管理より身上監護を目的とした利用も増えてくると思われます。
下のグラフを見てもわかるように、一人暮らしの高齢者は年々増加しており、女性の割合は男性の倍以上。
認知症の有病率は男性より女性のほうが高い傾向にあることを考えると、市民後見人の存在は不可欠です。
身寄りのない人が病院に入院するとき、介護施設に入居するときの手続きや費用の支払いなど、地域住民同士の支え合いの精神で、市民感覚の目線でもってサポートすることが大事になってくるでしょう。
そういう点でも、市民後見人ならではの強みを生かした後見活動に期待がかかります。
将来、認知症になっても安心して暮らせるような社会を築くためにも、国と自治体がしっかり手を取り合って、市民後見人の認知度を上げ、普及を進めていくことが望まれます。
多くの自治体で市民後見人を養成する財源や人材面で余裕がないことも、市民後見人の普及を遅らせる原因でしょうが、そろそろ軌道修正を図る時期にきているのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定