【ケアマネ協会会長監修】介護事例とヒヤリハットへの対応方法を解説

介護をする家族の数だけ介護のかたちがあります。ここでは、そんな介護生活のヒントになる事例と、専門家からのアドバイスを集めました。また、介護や医療の現場では、大きな事故につながりかねない「ヒヤリとする」「ハッとする」出来事のことを「ヒヤリハット」と呼びます。この記事では、日本介護支援専門員協会の柴口里則会長に監修していただき、こうしたヒヤリハットの対応策についても紹介しています。 もっと見る
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介護の事例

事例1:80歳を超える妻が同じく高齢の夫を介助する生活

佐々木吉蔵さん(仮名・80歳)は脳梗塞を患い、その後遺症で右側の手足が不自由になりました。

妻のタエさん(仮名・80歳)と二人暮らしをしていて、食事や排泄など日常生活を送るうえでタエさんの介助が欠かせない、という状況です。

80歳を超える妻が同じく80歳の夫を介助する老老介護の事例

現在、吉蔵さんは「要介護3」の認定を受け、デイサービスと訪問看護の介護サービスを週1回ずつ利用。

訪問看護に対しては、「デイサービスに行っているのだから、わざわざ来てもらわなくても良い」と吉蔵さん本人は少し嫌がっていますが、タエさんに説得され、利用を続けています。
吉蔵さんは、一日のほとんどを介護ベッドのある居間で過ごし、やや家の中に閉じこもりがちです。

食事は動かせる左手でスプーンを使って食べ、お風呂は週1回のデイサービスで入浴するほか、タエさんの介助で自宅の浴槽で入浴することもあります。
ただ、右手右足が不自由なため、自宅の浴室で軽く転倒してしまうことも少なくありません。

家事と介護のすべてを負担しているタエさんにとっては、たまに遊びに来る近所に住む友人やケアマネジャーが、良き話し相手であり相談相手です。

最近は、吉蔵さんの要介護度が上昇したら家での介護に限界が生じるので、将来的に施設に入ってもらうべきかどうか悩んでいます。
以下ではそんな吉蔵さんに専門家が送ったアドバイスを紹介します。

専門家からのアドバイス

夫婦二人暮らしで、タエさんは家のことに加えて介護もしなければならず、慢性的な疲労状態にあることも考えられます。

現在はデイサービスと訪問看護を週1回ずつの利用とのことですが、タエさんの介護負担を軽減するために、訪問介護の利用を検討すると良いでしょう。

入浴やトイレの介助にホームヘルパーの力を借りれば、タエさんの身体的負担を減らすことができます。

また、浴室での転倒リスクを減少させるために、福祉用具を導入することも重要。

浴室内の「左手ですぐにつかめる場所」に手すりをつけ、さらに段差をなくすためのスロープを設置することで、転倒の危険性は大幅に減ります。

手すりとスロープは、浴室以外にも玄関やトイレなどにも適宜設置すると良いでしょう。

ほかにも、タエさんは友人やケアマネジャーに介護のことを相談していますが、こうした関係を保つことは介護生活において大切なことです。

近所の方との交流は、吉蔵さん夫妻の見守りや安否確認にもつながります。

もし在宅介護の限界を感じているようであれば、早めに候補となる施設を探しておくと良いでしょう。

事例2:本人と家族にとって必要な介護サービスを受けたい

田中友吉さん(仮名)は、半年ほど前に脳出血を発症。

その後長らく入院していましたが、1週間前に退院し、現在は自宅で家族と生活しています。

友吉さんは脳出血によって左側の手足に麻痺が残り、入院中に介護保険制度の「要介護3」の認定のほか、身体障害1種2級の認定も受けました。

脳出血の後遺症で要介護3の認定を受けた高齢者の介護の事例

自宅で妻のハルさん(仮名)の介護を受ける日々を過ごしていますが、ほかに長男夫婦と孫2人と同居しており、必要に応じてハルさん以外の家族からも介護を受けています。

ただ、妻のハルさんはパート勤めをしていて、長男夫婦は共働き。
さらに孫2人も昼間は学校に行っているため、家族全員が友吉さんに対して「できることは自分でやってほしい」と考える傾向にあり、あまり介護に時間を掛けていません。

友吉さんはトイレ以外で自室から出ることは少ないため、家族はデイサービスの利用回数を増やすなどして、体を少しでも動かして欲しいと考えています。
しかし、友吉さんはその考えには消極的で、部屋の中ですぐ横になる、という現状です。

専門家からのアドバイス

友吉さんに対して、ご家族は「できることは自分でやってほしい」と考えていますが、内心としては「介護負担を負いたくない」という思いが強いようです。

しかし、そうした介護姿勢で本当に危険や問題がないのか、ご本人とご家族が話し合って、介護がどの程度必要なのかををきちんと確認しなければなりません。

友吉さんが日常生活を送るうえで何ができて何ができないのかを改めて把握し、ご本人の心身状態と家族の意識の間にズレがないか確かめる必要があります。

また、日中は、友吉さん以外は仕事や学校で外出していますが、訪問介護やデイサービスを利用し、友吉さんを家の中で一人きりにする時間をできるだけ減らすことも重要です。

特に、デイサービスは閉じこもりの防止や社会的な交流関係を持つ良い機会になるので、ご本人が許容できる範囲で、利用回数を増やしていくことも考えましょう。

現在、友吉さんは自室で横になっている時間が多いため、身体機能の低下が懸念されます。

自宅での暮らし方をはじめ、デイサービスの利用やリハビリの実施など、機能維持を図れる支援のあり方を検討する必要もありそうです。

事例3:行動範囲を広げたい

一人暮らしをしている美枝さん(仮名)は、去年転倒により左股関節を骨折して手術を受けました。

今は自宅で生活していますが、腰も痛む中、杖を利用しながらの歩行はいつも不安定です。

危ないということもあって日中も寝床にいることが多くあり、体を動かさないことがほとんど。朝と昼の食事は簡単なものを調理しているものの、夕食は配食サービスで済ませています。

股関節の手術を受け後遺症のある高齢者の介護の事例

ご近所とはあいさつを交わすぐらいの付き合いしかなく、現在は入浴目的で利用しているデイサービスが数少ない外出の機会です。
デイサービスでは、ほかの利用者との交流を楽しみにしています。

専門家からのアドバイス

美枝さんは怪我の後遺症に加え腰痛もあるため、歩行時における転倒の危険性が高いです。
離床時間が短い生活を送っていることから、下肢の筋力低下も心配されます。
まずは、体力や筋力の低下を防ぐため、歩行訓練や階段昇降練習などを行い、移動距離を延ばすことを考えてみましょう。

ただ、現在一人暮らしで、ご近所の支援もあまり受けられない環境にあることから、見守り体制に不安があります。
デイサービスの通所時に、介護職員の見守りの下で自分の力で歩行することから始めてみましょう。
腰痛についても定期的に主治医と相談し、状態を把握していくことが大事です。

また、生活意欲を高め、張りのある暮らしを送るために、家の中のバリアフリー改修を行うことも重要。
台所をはじめ、廊下や玄関など生活動線を意識した形で手すりやスロープを設置していくと、屋内での移動が楽になり、家事もしやすくなります。

さらに社会とのつながりを増やすためにも、民生委員やボランティアなど、介護保険サービス以外のサービスも活用していきましょう。

事例4:不眠による生活リズムの乱れ

祐三さん(仮名)は、脳梗塞の後遺症によって右側の手足が不自由になっており、妻の美佐枝さん(仮名)の介護を受けながら生活しています。

介護保険では「要介護3」の認定を受けており、日常生活の多くの場面で美佐枝さんのサポートが必要な状態です。

脳梗塞の後遺症により要介護3の認定を受けた高齢者のデイサービスを中心とした介護の事例

祐三さんは現在、デイサービスを週2回、訪問介護を週4回利用しています。

デイサービスは主に入浴目的で、訪問介護はホームヘルパーが自宅を訪れ、排泄の介助などのサービスを受けることが多いです。

最近の悩みは、祐三さんに昼夜逆転の傾向が出始めているということ。

デイサービスを利用した日はぐっすり眠れるのですが、利用のない日は夜中も目が覚めた状態になり、美佐枝さんも介護のために夜中に起きる回数が増えています。

現在は夫婦二人で公営住宅に住んでおり、離れて住む長男の孝義さん(仮名)から同居しようと誘われていますが、今のところそれに応じていないという状況です。

専門家からのアドバイス

まず、祐三さんの昼夜逆転を改善することが大事になります。
ご本人の体調管理にとって必要なのはもちろんですが、介護をする美佐枝さんの負担を減らすためにも重要です。

デイサービスに行かない日も、ホームヘルパーのサポートを受けて散歩に出かけるなど、ほど良い疲れを感じられる運動を生活の中に取り入れることがポイントになります。
その疲労感で、夜に熟睡できるようになるのではないでしょうか。

あるいは、ショートステイを利用するなど生活環境をしばらく変えると、生活のリズムが整うこともあります。

また、玄関の段差は、住宅改修や福祉用具貸与でスロープや手すりをレンタルするなどして、早めに解消することが必要でしょう。

どのような方法が最も合理的なのか、ケアマネジャーと相談することをおすすめします。

さらに現在二人暮らしということなので、見守り体制を構築することも大事。

離れて暮らす長男の孝義さんには普段から見守りの必要性について意識をしっかり持ってもらい、こまめに電話連絡するなど安否確認をきちんと行うことが求められます。

事例5:両親の気持ちを尊重したい

明代さん(仮名)は、3年前に脳梗塞で倒れ、後遺症により左半身が少し不自由となっています。

現在は一緒に暮らす夫の宏さん(仮名)が毎日懸命に介護を行っていますが、最近はベッドの上で横になっている時間が増え、外出時間も次第に減少。

デイサービスを週2回利用しており、それが自室から出る貴重な機会となっています。

現在の要介護認定の段階は「要介護3」です。

脳梗塞の後遺症で左半身麻痺がある高齢者の介護の事例

宏さんは、家事のことはすべて明代さんに任せきりだったので、明代さんが倒れてからは家事と介護に四苦八苦。

宏さんもすでに高齢の身で、同じ市に住んでいる息子と娘が時々実家を訪れてサポートしていますが、この頃は宏さんにかなり疲れが出始めるようになりました。

普段の介護の中では排泄の介助に苦労し、特に夜間のトイレ介助が大変になっているようです。
自室からトイレまでの移動時、明代さんを転倒させたりしないようにいつも細かく注意を払っており、緊張が続く日々を送っています。

専門家からのアドバイス

明代さんの離床時間が減っていることから、身体機能の低下が懸念されます。

デイサービス利用時にリハビリを取り入れるなど、体を動かす機会を増やすよう心掛けましょう。

また、同じ市に住む息子さんと娘さんは同じ市に住んでいるため、会いに行きやすいと考えられます。その二人ができるだけ頻繁に明代さん宅を訪れ、一緒に料理をつくるなどして親子で楽しい時間を過ごすのも良いかもしれません。

そうした活動は体だけでなく心のリハビリにもなります。

また、家事に不慣れな宏さんに介護負担が集中し、疲労が蓄積しているようです。

子どもたちと話し合いの場を持ち、計画的に介護負担を分散していく必要があるでしょう。

特に家事が大変なようなので、生活のサポートが重要です。

それから宏さんはトイレ介助に苦労されているということなので、廊下やトイレの中に手すりを設置するなど、住環境をきちんと整備することが求められます。

明代さんが転倒しにくい環境を整えれば、宏さんの緊張感を軽くすることもできるでしょう。

ヒヤリハットの事例と対応策

老夫婦が目を閉じて考えるヒヤリハット

介護をしていると、結果としては何事もなかったものの、「ヒヤリとする」「ハッとする」という出来事が起こることは珍しくありません。

こうした、「寸前になんとか防ぐことができたけれど、一歩間違えば大きな事故につながりかねない事例」のことを、介護や医療の現場では「ヒヤリハット」と呼んでいます。

例えば、たまたま複数の作業が重なり、ちょっと要介護者から目を離した間に転倒しそうになるということは、介護をしたことのある方なら経験があるのではないでしょうか。

また食事介助中、ちょっと台所に移動していた間に、食べ物を飲み込む力が衰えている方が食べていた物をのどに詰まらせる、ということも起こり得ます。

ヒヤリハットは、日常生活の場面や場所、そして要介護者の状態などによってさまざまなケースがあります。

事例1:車椅子からの立ち上がり介助

車椅子からの立ち上がり介助時のヒヤリハット

車椅子やベッドから一人で立ち上がれない要介護者に対して、腕と体に手を添えて立ち上がりの介助をしようとしたところ、要介護者の足元がよろけて転倒しそうになった。

こうしたケースは、要介護者に立ち上がることの同意を得ておらず、これから立つということがしっかり伝わっていないことで起こります。
両足に力が入っていない状態で無理に立たせられることで、足元がよろけてしまったのです。

「せーの」といった掛け声をかけるなど、力を入れるタイミングを合わせることも大事になります。

また、要介護者に立ち上がりを促す前に、本人の靴や履物の状態を確認しましょう。
靴のひもやマジックテープが緩んでいると、立ち上がりの際靴が脱げてしまい、転倒する恐れがあります。

事例2:服薬管理ミス

服薬管理時のヒヤリハットのイメージ

朝食後と夕食後の1日2回飲んでもらう薬を、昼食後にも飲みそうになった・・・など、要介護状態になると、内服薬の管理を本人が行うことが難しくなるため、介護者が食前や食後に飲む内服薬の管理を任される場合があります。

しかし、介護者も管理を万全に行えるとは限らず、服薬の時間を間違えることや、飲ませる量を誤るということは起こり得るでしょう。

内服薬の種類や時間を間違えて飲ませることは、大きな事故につながる恐れがあります。
必要に応じてお薬カレンダーを利用するなど、普段から薬の管理をきちんと行うことが重要です。

薬の服用は毎食後など1日に何度も行わなければならないことも多く、介護に追われる中、油断や慣れなどから注意が散漫になりやすいもの。
ヒヤリハットが起きやすい事例と言えるでしょう。

事例3:ベッド上での介助

ベッド上での介助におけるヒヤリハットのイメージ

ベッドからの転落防止のために、ベッド脇に柵を設置することがあります。おむつ交換後、ベッド柵をもとどおりりに設置し直すのをうっかり忘れてしまった・・・。

そのせいで、後で様子を見に行った際、要介護者の足がベッドからはみ出して転落しかけていた。

自分の力でベッドから起き上がれない要介護者の場合、排泄介助が必要になることが多いです。作業を急ぐあまり、おむつ交換を行った後にベッド柵をつけ忘れてしまうということは十分に起こり得ます。

同様に、ベッドからトイレまで付き添って排泄の介助を行い、戻った後に柵をつけ忘れることは良くあるケースです。
外した柵を部屋の隅など目の届かない場所に置くのではなく、目立つ場所に置くようにするなどして、つけ忘れを防ぎましょう。

ヒヤリハットを防ぐ4つの対応策

ヒヤリハットを防ぐための対策についてひらめく老夫婦

もしヒヤリハットが起こった場合、「何事もなくて良かった」とただホッとするのではなく、再びそのようなことが起こらないように対策を立てることが大事です。

まず、ヒヤリハットが起こった場所の環境や介助体制に問題がなかったのか確かめましょう。
福祉用具を使っていて起こったのなら、用具に不具合がなかったのか、あるいは使用した環境や使用方法に問題がなかったのか、しっかりと確認する必要があります。

それから、介護者自身に油断や気の緩みがなかったか、冷静に振り返ることも大事。
毎日同じ作業を繰り返していると、作業がいい加減になってしまう、ということもあるかもしれません。

特に服薬管理など、事前に確認作業をしっかりと行う必要のあるものは、気を抜かないように注意しましょう。また、要介護者の心身状態や日常生活動作の現状を正確に把握していたかどうかも要チェックです。

介護者が問題なくできると思っていたことでも、実は機能低下が進んだ要介護者にとって大変だった、ということもよくあります。

起こったヒヤリハットについて、介護者が一人だけで把握するのではなく、同居するほかの家族をはじめ、ケアマネジャーやホームヘルパーなど、介護にかかわる人たちと共有していくことも大切です。

何か事故が起こりそうになったとき、その原因や内容について記録しておく「ヒヤリハット報告書」を作成するのも、ひとつの方法です。

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デイサービスは何をするの?

デイサービスでは、食事、入浴、排泄などの介護サービスを受けます。また機能訓練指導員によるリハビリ体操なども実施。利用者と一緒にレクリエーションやイベントを楽しみ、人との関わりをつなげる働きも行っています。

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デイケア(通所リハビリテーション)は医療ケアを中心に、身体機能の回復・維持などを行います。デイサービス(通所介護)は日帰りで施設へ行き、食事、入浴などの介護サービスやレクリエーションなどを楽しみます。利用者が自宅で自立した日常生活を送れるように、支援をすることを目的としています。