訪問入浴とは?サービスや仕事内容、利用するメリット・デメリットを徹底解説!

訪問入浴とは、自宅の浴槽を利用できない人に入浴の機会を提供する介護サービスのことです。 寝たきり状態になると、たとえ家族による介助を受けても、入浴するのは難しくなってきます。無理な入浴は転倒など怪我の原因にもなりかねません。訪問入浴を利用すれば、専門家のサポートのもと、安全かつ快適に入浴することができます。 こちらでは、訪問入浴のサービス内容や利用方法、さらに従事した場合の給与などについて詳しく解説しますので、介護業界での就労を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

高齢者向け訪問入浴とは

訪問入浴とは、自宅での入浴が困難な方に入浴サービスを提供する介護保険適用のサービスです。

入浴は体を清潔に保つことに加えて、日常生活を送るうえで必要となる心身機能の維持・回復にもつながります。要介護度が高い人だと、自宅に浴槽があっても自力での入浴は困難です。

体をきれいにするため清拭を行うことが基本ですが、訪問入浴を利用すれば、お湯の入った湯船に浸かることができます。

ここでは、訪問入浴の目的、サービス内容と特徴、サービスの流れについてご紹介しましょう。

1.訪問入浴の目的

訪問入浴は要介護状態の高齢者に入浴サービスを提供することで、精神的なリラックス効果による睡眠の質の向上、皮膚を清潔にすることによる感染の予防などが目的です。

健常者にとっては日常的な行為である入浴も、要介護状態の高齢者にとっては決して簡単なことではありません。

衣服を脱ぐこと、体を洗うこと、浴槽をまたいで湯船に浸かるといったことは、身体機能に衰えが生じると難しくなっています。寝たきりに近い状態になると、同居する家族介護者の支援があっても、入浴が困難になることも多いです。訪問入浴は、そんな高齢者に入浴を提供することを目的に導入されました。

2.サービス内容と特徴

訪問入浴では、簡易式の浴槽を持ち込み、利用者の自宅に設置して入浴介助が実施されます。

浴槽を実際に置くことになるため、利用者は自宅内に最低でも2畳ほどのスペースが必要です。しかし、そのスペースを確保できるなら、一軒家だけでなく団地やマンションなどでも利用できます。実際、都市部では共同住宅で訪問入浴が利用されるケースが多いです。

サービスを提供するのは2人以上の介護職員と看護師または准看護師1人で、合計3人以上とされています。入浴の前後にバイタルチェックや体調の確認を行うため、必ず1人の看護職員が付き添わなければなりません。

3.サービスの流れ

訪問入浴サービスの流れ

車で自宅へ訪問

訪問入浴を利用する当日、簡易浴槽を用意した職員が、専用の訪問入浴車で利用者の自宅を訪問します。訪問入浴車には、その日に使うお湯が積まれていることも多いです。自宅の前までの道が分かりにくい場合は、必要に応じて利用者の家族・親族が家の前で誘導します。

健康状態の確認

利用者の自宅に到着すると、最初に付き添いの看護職員が利用者のバイタルチェックを実施。その日に入浴できる状態かどうかを見極めます。

もし入浴が難しいと判断されたら、部分浴あるいは清拭のサービスが提供されるのが一般的です。

バイタルチェックだけでなく、ストレッチャー型の体重計を自宅内に搬送し、体重測定を行う場合もあります。

脱衣、入浴の準備

脱衣・入浴のイメージイラスト

入浴できると判断されたら、スタッフは速やかに簡易浴槽の組立を開始。利用者の自宅内に約2畳程度の空間を確保して、そこに設置します。

浴槽に入れるお湯は、訪問入浴車に積まれているケースや、利用者宅の浴室から引いてくるケースなどさまざまです。

一通り準備が終わったら、利用者の脱衣を行います。寝たきりなど要介護度が高い利用者の場合、脱衣に介助が必要となることも多いです。

浴槽へ移動

浴槽が整えられたら、介護職員が介助しながら利用者にお湯に浸かってもらいますが、その際、ベッドから浴槽に移動の介助が必要です。

転倒などの事故が起こらないように、2人以上の介護職員が細心の注意を払ってサポートを行います。

入浴

入浴のイメージイラスト

利用者が浴槽に入ると、その際に利用者の体と髪を洗います。洗う際は、肌を傷つけないように優しく洗うのが基本です。一通り体を洗い終えると、浴槽にゆったりと浸かり、心身を癒してもらいます。

体に無理をかけない姿勢で入浴できるように、浴槽に取り付けるタイプの入浴枕が用いられることもあるようです。

更衣、片付け

入浴を終えると、看護職員がバイタルチェックや皮膚のチェックを行って異常がないかを確かめてサービスが終了です。

もし皮膚に異常が見られる場合は、必要に応じて軟膏の塗布を行います。もし褥瘡が見られる場合は、その処置も必要です。一通りのチェック、処置を終えたら、更衣を完了させます。

使用したお湯は、スタッフが持参したポンプで利用者の自宅内にある排水溝やトイレに流します。

4.人員基準、設備基準

訪問入浴を提供するには、制度上定められている人員基準と設備基準を満たしている必要があります。

人員基準は下記のようになります。

  1. 看護師または准看護師1人以上
  2. 介護職員2人以上

また、従業員のほかに、訪問入浴事業所ごとに専従・常勤の管理者を設置する必要があります。

設備基準については、事業の運営を行ううえで必要な広さを持つ専用の区画を設けること、訪問入浴の提供に必要な浴槽などの設備・備品を備えていること、という基準を満たすことが必要です。

オペレーターの役割

訪問入浴では、2人の介護職員のうちの1人が「オペレーター」という役割を担います。

オペレーターの業務は、訪問入浴者の運転、簡易浴槽をはじめとする各種機材の搬入出と設置、片づけの実施、お湯の準備と管理、利用者の浴槽・ベッドへの移動、入浴介助などです。

車の運転が必要となるため、これから訪問入浴事業所に勤務するという場合、オペレーターを任されることを想定し、普通自動車運転免許を保有していることが望ましいでしょう。

看護師は医療行為を行えない

看護師は医療行為を行えない

訪問入浴には看護師または准看護師が同伴しますが、利用者の自宅では原則として医療行為は行えません。

普段から訪問看護などを利用していて「せっかく看護師さんもいるから…」といって、入浴に関係のない医療行為を依頼しても対応してくれませんので、利用する際は注意しましょう。

付き添いの看護職が行えるのは、バイタルチェックや軟膏の塗布、湿布の張替えなどのみです。健康状態を確認するのがメインと言えます。

ほかの入浴サービスとの比較

1.デイサービス(通所介護)との違い

デイサービスは、通所介護事業所に通って、バイタルチェックや入浴、食事、レクリエーションなどを行う介護保険サービスです。デイサービスでも入浴することができ、必要に応じて介護職員による介助を受けることもできます。

ただし、デイサービスが専用の送迎車で事業所まで行き、そこで入浴介助を受けるのに対して、訪問入浴は入浴専門車が自宅にやってきて、自宅で入浴介助を受けるサービスです。

自宅にいながらにして入浴できるので、寝たきりの方など要介護度の高い方に適しているサービスです。

2.デイケアとの違い

デイケアとは、通所リハビリのことで、病院・診療所や介護老人保健施設などに通ってリハビリを受けるサービスのことです。

病気や怪我による後遺症のある人が医療機関や施設から退院・退所して自宅に戻った際、引き続きリハビリを受けるために利用するサービスとして位置づけられています。

デイケアはデイサービスと同じく、食事や入浴、レクリエーションのサービスを提供している介護サービスです。利用者が望めば入浴の介助を受けることもできます。

しかしデイサービスと同じく、基本は通いによる利用です。そのため、家に居ながらにして入浴できる訪問入浴サービスとは大きく違っています。

3.ホームヘルパーの入浴介助との違い

ホームヘルパーの入浴介助との違い

ホームヘルパーが自宅に来て利用者の介護を行う訪問介護サービスでも、入浴の介助を受けることができます。

ただし、訪問介護では簡易浴槽やお湯などの持参はなく、さらに看護職による入浴前後の体調管理などは行われません。訪問介護では、利用者の自宅にあるお風呂場を利用して介助が行われます。

そのため、自宅で訪問介護の入浴介助を受ける場合は、必要に応じて自宅のお風呂場のバリアフリー改修なども必要です。

一方、訪問入浴介助では、スタッフが簡易浴槽を準備し、お湯も用意してくれることもあります。

寝たきりの状態であるなど介助を受けても自宅のお風呂場を利用できないときに、訪問入浴介助の利用が望ましいわけです。

訪問入浴の仕事

1.仕事内容

訪問入浴の仕事内容は以下のようになります。

  1. 入浴専用車での利用者宅へのアクセス
  2. 入浴前のバイタル・健康チェック
  3. 脱衣
  4. 入浴
  5. 着衣
  6. 入浴後のバイタル・健康チェック

主に、入浴の準備や着替えの支援、洗髪などの入浴支援を行うのが介護職員の役割、バイタル・健康チェックが看護職の仕事となっています。

利用者に安全に浴槽に入ってもらうには経験も必要であるため、実務経験豊富な介護職員と新人の介護職員がペアとなって訪問入浴を提供することも多いです。

2.働くために必要な資格

働くために必要な資格

訪問入浴に従事するのは介護職員2名以上、看護職員1名以上です。

介護職員として働く場合、職に就くうえで条件となる資格はありません。しかし、介護の資格である介護職員初任者研修、旧ホームヘルパー2級、実務者研修、旧ホームヘルパー1級、介護福祉士などを保持していることが望ましいです。

また、入浴専用車を運転する必要もあることから、運転免許証を保有していると業務を行ううえで便利でしょう。

一方、看護職員の場合、看護師または准看護師の資格が必要です。

3.雇用形態別の給料

「みんなの介護求人」に掲載されている実際の求人情報を見てみると、訪問入浴を提供している事業所で勤務する場合、正社員だと月給は17万円~25万円が相場となっています。

未経験・無資格でも介護スタッフとして従事はできますが、やはり経験者・有資格者に比べると待遇は低めとなるでしょう。

パート・アルバイトの場合だと、時給は850円~1,900円と幅広いです。こちらも、年齢や実務経験、勤務先、保有している資格によって待遇は大きく変わってきます。

良い事業所を選ぶポイント

1.寝たきり状態の場合

寝たきりの状態

寝たきりの方の場合、手足や関節が硬くなる拘縮(こうしゅく)という状態が生じている場合があります。

拘縮が発生していると、手が握ったまま固まっている、足の股関節が固まっているといった症状がみられ、身体が洗いにくいです。急いで入浴するような状況下だと、身体の各部位に洗い残しも起こってきます。

そのため、訪問入浴を利用する際は、スケジュールに無理がなく、慌ただしくない状況でケアをしてくれる事業所を選ぶことが大切です。

例えば、1事業所あたりの利用者数が多い事業所だと、一日にいくつもの訪問場所があり、忙しい中での作業になる傾向があります。そうなると、落ち着いてしっかりと体を洗うことが難しくなる場合もあるかもしれません。

実際にサービスを利用する際、事業所側にその日のスケジュールに余裕があるのか、次の予定が詰まっている中での作業にならないか、などを確認してみましょう。

2.医療サポートが必要な場合

医療的なサポートを必要とする方の場合、入浴によって体力を大きく消耗し、その後体調が悪化する場合も少なくありません。

訪問入浴でも入浴後のバイタル・健康チェックを行いますが、チェック時には問題なく、職員がサービスを終えて帰ってしまった後に体調が悪化する恐れもあります。

もし医療的サポートを要する方の場合、訪問入浴と訪問看護が併設されている事業所を利用するのも1つの方法です。その場合、仮にサービス終了後に利用者の体調に異変が生じた場合、「訪問入浴に同伴する看護師」と「訪問看護の看護師」が連携し、入浴時の状態などを踏まえたうえでの緊急対応も行うことができます。

もし住んでいる地域に訪問入浴と訪問看護が併設されている事業所がない場合、体調が急に悪化した場合にどのような対応をしてくれるのか、訪問入浴事業所に確認しておくことが大切です。

訪問入浴の利用方法は?

1.利用対象者

訪問入浴は介護保険サービスなので、お住まいの役所で要介護認定の申請を行い、要介護1以上の認定を受けている方が利用対象です。

基本的に自宅にある浴槽での入浴が難しい方が料金を支払って利用するサービスであり、寝たきりの方など要介護度が高めの方向けのサービスとして位置づけられています。

要支援1または2の認定を受けている場合は、自宅に浴槽がない、感染症などがあって共同浴場などでの入浴が難しい場合に、「介護予防訪問入浴」としてサービス利用が可能です。

なお、訪問入浴を利用するには、担当の医師から入浴の許可が出ていることを指示書によって提示することが求められます。

2.利用するタイミング

訪問入浴は、要介護認定を受けている人を対象とした介護保険サービスです。ただし、実際に利用している人のほとんどは、病気などにより要介護状態が重い方、要介護認定の段階だと要介護4、5の方が多い傾向があります。

自宅の浴槽を利用できず、さらにデイサービスに通って入浴することも難しくなった場合に、訪問入浴を利用する人が多いわけです。

サービス開始までの流れ

訪問入浴介護利用までの流れ

訪問入浴を利用するには、まずは担当のケアマネージャーに相談し、利用したい旨を伝えることが必要です。

ケアマネージャーは利用者・家族の要望を聞き、本人に適した事業所を探し、選んでくれます。選ばれた事業所に特に問題がなければ、そのまま契約に移るのが通例です。

契約の際、事業所側はサービス内容などについて書面を通して詳しく利用者・家族に説明します。そのうえで、利用者・家族がその説明内容に納得したことを示す同意書の作成が必要です。

これら説明と同意書の作成は、制度上義務付けられているため、必ず行わなければなりません。

契約が正式に成立すれば、ケアプランの中に訪問入浴が組み込まれ、サービスが開始されます。

3.利用料金

訪問入浴の基本料金は、利用者が要支援1~2の場合は全身浴856円、清拭または部分浴が770円。利用者が要介護1~5の場合は、全身浴1,266円、清拭または部分浴が1139円と設定されています(厚生労働省『介護報酬の算定構造」2019年10月改訂版)。

ただし、この金額は介護保険の自己負担額が1割の場合です。一定以上の所得がある場合は、2~3割となるため注意が必要です。

サービスの所要時間については、準備から片づけまでは一般的に45~50分。そのうち、お湯につかっている時間は10分ほどです。

                 
要介護度 基本単位数 自己負担額
要支援1、2 856 856円
要介護1~5 1,266 1,266円
出典:「介護報酬の算定構造」(厚生労働省)

1単位10円として計算すると1万2,660円。自己負担1割であれば、利用者が負担するのはそのうちの1割である1,266円です。

さらに、介護福祉士などを一定以上の割合配置し、研修を実施している場合、あるいは中山間地域でサービス提供を行っている場合は、「加算」がつきます。

訪問入浴を利用するメリット・デメリット

1.メリット

訪問入浴のメリット

訪問入浴を利用するメリットは、第一に、寝たきりなど要介護度の重い方の体を清潔に保てるという点があります。

重度の要介護者は、自宅だと家族のサポートがあっても入浴は難しくなることが多いです。訪問入浴を利用すれば、介護職・看護職の支援を受けながらお風呂に入ることができます。

また、血行が良くなるという点も大きなメリットです。お湯につかることで、体中の血行が良くなって身体機能がアップし、便秘や床ずれの予防・解消効果が期待できます。

ほかにも、入浴によってリラックス効果を得られる、家族の入浴介助の負担を軽減できるなど、訪問入浴の利用によるメリットは多いです。

2.デメリット

訪問入浴のデメリットとしてまず指摘できるのが、利用料金が高めであるという点です。訪問介護を60分利用した場合の利用料金は、自己負担1割だと約600円。一方、平均で45~50分程度の利用となる訪問入浴の利用料金は、自己負担1割で1,256円です。

準備が大変という点はあるものの、やはりサービスの単価は比較的に高めであるため、利用回数を増やすことは経済的に難しい面があります。

また、利用の際は事業所から入浴専用車が向かいますが、そのための駐車スペースが必要です。自宅の近くに駐車場などがない場合、サービスの利用が難しいこともあります。

さらに、利用者本人の羞恥心も考慮しなければなりません。利用者本人は、訪問した介護職、看護職に裸を見られます。

同性介護が難しい場合などは、利用者本人が不快に感じる場合があるため、サービスを提供する側は注意が必要です。